治療・予防

QOL維持する胃ろう
~安全性向上、患者の苦痛減少~

 胃ろうは、内視鏡を用いお腹に小さな穴(ろう孔)を開けてカテーテルを通し、胃に直接栄養を送る栄養補給法だ。脳血管障害や神経疾患などで食事を口から取れなかったり、飲み込むのが困難だったりする患者の増加に対応する医療だが、無理やり生かされているというイメージが強かった。国際医療福祉大学医学部の鈴木裕教授(消化器外科学)は「米国などでは点滴より胃ろうの方が主流で、患者の生活の質(QOL)維持に貢献する」と強調し、安全性を高め、患者の負担を減らす医療器具(デバイス)に期待をかける。

胃ろうは胃に直接栄養を送る

胃ろうは胃に直接栄養を送る

 ◇患者に幸せもたらす

 栄養学的に最も合理的で安全性が高いのは、口で食事を取ることだ。免疫機構には消化器が大きく関係し、食事を取らないと免疫機構が発動しない。その8割が小腸の働きによるとされている。

 2012年ごろ、胃ろうに対するバッシングが起きたという。医療事故や「患者に苦しい思いをさせ、胃ろうをしても寿命は延びない」といった批判によるものだ。鈴木教授は「命を長らえさせることだけが患者にとって幸せなのだろうか」と前置きした上で、胃ろうによって食べることができるようになり、自宅に戻ることもできる。良い医療とは、患者に幸せをもたらすことができたかどうかだ」と話す。

鈴木裕・国際医療福祉大学医学部教授

鈴木裕・国際医療福祉大学医学部教授

 ◇二つのタイプの長所と短所

 患者が消化器を使える場合の栄養補給の手段として、短期的には鼻からチューブを入れる経鼻チューブ、長期的には胃ろうがある。長期的な栄養補給に関し、米国などでは胃ろうが点滴を上回っているという。

 カテーテルには「バンパー型」と「バルーン型」がある。両者は共に、長所と短所がある。

 バンパー型は耐久性があり、カテーテルの交換は4~6カ月に1回で済む。欠点は交換時に患者が苦痛を伴ったり、術者の手技が難しく、交換時にろう孔の損傷を招いたりすることがある。

 鈴木教授は「カテーテルを抜去し、新しい物を挿入する際のろう孔損傷のリスクや出血がどうしても避けられない。胃ろうを巡る医療事故はほとんどがバンパー型が占める」と話す。

 バルーン型の長所は交換時の患者の苦痛がほとんどないことだ。バンパー型に比べて手技も複雑ではないため、術者のストレスも少ない。

 「時間がたつとバルーンの破裂は避けられない。頻繁に交換するには在宅では無理で、何度も病院に通う必要がある」

 厚生労働省は、原則として1カ月で交換としているが、毎月交換しなければならない患者や家族の負担は小さくない。

 鈴木教授によると、カテーテル交換時における誤った挿入は約0.5%で、1000人に5人の割合で起きるという。リスクは小さいようにも思えるが、鈴木教授は「栄養剤の誤注入につながり、最悪の場合は患者が死亡するケースもある」と指摘する。

イディアルシースPEGキット(イディアルボタンZERO)

イディアルシースPEGキット(イディアルボタンZERO)

 ◇改良ではなくイノベーション

 胃ろうに携わる医療者には、患者の苦痛を軽減するとともに事故を少なくするデバイスの登場を求める声が多かった。

 オリンパスは9月、「イディアルシースPEGキット(イディアルボタンZERO)」の国内販売を始めた。同社によると、先端のバンパーをカプセルに収納することでスムーズな挿入を助け、シースという体外と胃をつなぐトンネル状の空間を確保するデバイスによって、胃ろうの造設からカテーテル交換まで一貫して対応できるという。

 鈴木教授はバンパー型の同製品について「バンパー型とバルーン型双方の利点を残し、欠点をなくしている」と指摘する。安全性の向上による術者のストレス軽減、患者の苦痛緩和、頻繁に病院に行く必要がない経済性などで同製品を評価し、「従来のデバイスの改良ではなく、イノベーションだ」と話す。(鈴木豊)

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