淡水魚などの生食で発症
~顎口虫症(東京都立墨東病院 中村ふくみ部長)~
顎口虫(がくこうちゅう)という寄生虫によって起こる顎口虫症。みみず腫れや紅斑などができる珍しい病気だが、集団感染が起きたこともある。東京都立墨東病院(東京都墨田区)感染症科の中村ふくみ部長に聞いた。

顎口虫の寄生先
◇移行跡がみみず腫れに
顎口虫は線虫の一種で、日本では有棘(ゆうきょく)顎口虫、ドロレス顎口虫、日本顎口虫、剛棘(ごうきょく)顎口虫の4種類が顎口虫症の原因として知られている。
ふ化して成虫になるまでに、寄生先を第1中間宿主(甲殻類のケンミジンコ)、第2中間宿主または待機宿主(ドジョウ、ヤマメ、シラウオなどの淡水魚やマムシなど)と替え、最終的に終宿主(イノシシ、イタチなど)で成虫になり産卵する。
第2中間宿主の体内では幼虫が成長し、待機宿主の体内では成長せず次の宿主への感染を待っている。幼虫が生きた状態の第2中間宿主か待機宿主が、人間への感染源となる。
国内の患者数は、1985年以降は年間約10例以下などと報告されているが、顎口虫症は感染症法に基づく届け出の対象にはなっておらず、正確な感染者数は不明だ。
2022年9月~23年5月に青森県東部地域で顎口虫症の集団感染が発生し、患者が300人余りに上った。多くはシラウオを加熱せずに食べていた。同県などでは、1990年代前半にもコイなどの生食による顎口虫症の発生が報じられている。「顎口虫の生育環が自然界で維持されていれば、全国どこでも発生する可能性があります。海外ではタイ、ベトナム、メキシコなどで患者が多いことが知られています」
◇食材は十分に加熱を
幼虫の体長は2ミリほどで、人の体内に侵入すると居場所を求めてさまよう。体表近くに現れると、移行した跡がみみず腫れになったり、紅斑などができたりする。腸にとどまり、腫瘤(しゅりゅう)ができて腸閉塞に至るケースも。極めてまれに、眼球や脳の中枢神経に入り込んで重い症状を引き起こす場合もあるという。「症状が表れるのは幼虫が体内に侵入して約1~2カ月後からが多いですが、無症状のまま経過する人もいます。人の体内は幼虫が成長できる環境ではなく、数カ月で死滅します」
治療は、顎口虫が皮膚表層近くにいれば皮膚を切開して摘出する。他に、線虫類による感染症で使われるアルベンタゾール、イベルメクチンなどの駆虫薬を内服する。
中村部長は「予防で重要なのは食材の十分な加熱です。もし症状が出たら皮膚科や感染症科などに受診を」と助言している。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)
(2025/02/17 05:00)
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