女性医師のキャリア
政治と医療の現場から女性支援
性暴力、福祉政策に挑む 富山県議・産婦人科医の種部恭子氏
◇医療の外の課題に向き合う
摂食障害や自傷などの生きづらさが虐待や暴力に起因することは多いです。だからこそ、「異常がないのでお帰り下さい」とは言わないクリニックを目指してきました。しかし、カウンセリングや関係調整は一医療機関で担えるものではありません。
開院前、女性たちがどんなクリニックを求めているのか、性教育や女性支援を担ってきた仲間に意見をもらいました。その中心となっていたカウンセラーや助産師たちは、後にNPO法人を立ち上げ、県の女性健康相談事業を請け負うなどの社会支援を行ってくれることになりました。パパ活で妊娠し、親への連絡や無保険を恐れている女性は病院には行きません。NPOの活動は、受診の敷居を下げる役割を担いつつ、生きづらい人々の出口支援となる福祉などの社会資源との連携も担ってくれています。
10代出産の推移
◇「同意なき性的行為」処罰対象に
私の活動のきっかけとなった学校での性教育は現在も継続しています。予期せぬ妊娠や性感染症予防のために、知識としての性教育は大切です。しかし、10代の妊娠の背景には、同意のない性交、すなわち性暴力や性的搾取があり、それは社会が解決する問題です。
性虐待は加害者からの口止めや脅しのため相談に至らず、加害者の処罰は困難でした。近親者からの性暴力を犯罪として処罰する規定を設け、性交同意年齢を引き上げるべきだということを国の専門調査会などで訴え続けてきました。2017年に明治の制定以来110年ぶりに刑法が改正され、監護者による性交を処罰する規定が新設されました。昨年、性交同意年齢が16歳未満に引き上げられ、同意のない性的行為をすべて「不同意性交等罪」として処罰対象とする大幅な改正が行われたことは大きな前進です。
◇医師として性暴力対策に携わる
性暴力においては証拠保全や裁判対応など専門的な技術が必要ですが、クリニックを開院した当初、性暴力被害者対応を専門とする医師が少なく、対応できる医療機関がほとんどありませんでした。地道に警察や検察の仕事に協力を続けていたことで、日本産科婦人科学会の診療ガイドラインの作成委員に選出され、手探りだった性暴力、DV、性虐待への対応について、産婦人科医療の標準化への道が開かれることになりました。
◇大人も子どもも息苦しい
昔の日本は居場所となる隙間や緩い人間関係がありました。今は家庭にも社会にも居場所がないだけでなく、社会全体が柔軟性を失って硬直化しています。子どもたちの社会に対する怒りは、一昔前までは非行という形で分かりやすく発散され、はじき出されないためのコミュニティーがあったのですが、今の子どもたちは小さないざこざから利害調整を学び、葛藤を乗り超えるプロセスを経験できなくなりました。親が介入することで、子どもたちは体験不足に陥っています。翌朝にはリセットされていたケンカも、今は24時間SNSでつながっており、翌日学校に行くとエスカレートしていることもあります。親子関係が行き詰っても相談ができず、息苦しいまま課題が持ち越され、重層化するとさらに社会の中で受け止めてくれる場所がなくなります。
◇社会が子どもを守り育てる
海外の多くの国では社会が子どもを育てる機能を担っています。子どもが生きづらいなら、その意見を聞き、仕組みや形を変えて居場所や受け皿を作っていきます。家庭が機能不全なら、家庭の代わりに安全に過ごせるシェルターがあり、多くの人が福祉に関わって対応に当たります。そもそも学校自体が座学に重きを置いておらず、コミュニケーションスキルを培い、対立する意見を調整する能力を身につけるための長い教育課程を組んでいます。その上で若年妊娠や自傷行為などの問題が見えたら、社会が本気で対応に乗り出します。
(2024/12/12 05:00)