治療・予防

糖尿病の血糖値管理きめ細かく
~持続測定で変動把握~

 糖尿病患者の血糖値測定で、数値を持続的にモニターする方式への関心が高まっている。薬や食事運動などによる詳細な変動が把握でき、血糖値の上がり過ぎや下がり過ぎを回避したり減らしたりしやすくなる利点がある。この測定法を前提とした新たな管理指標も提唱されており、合併症リスクの低減などに役立つとみられている。

血糖値を下げるためのインスリン注射(イメージ画像)

血糖値を下げるためのインスリン注射(イメージ画像)

 ◇世界標準のHbA1c

 血糖値管理に用いられる指標としては、ヘモグロビンA1c(HbA1c)がよく知られている。血液中のヘモグロビンのうち、ブドウ糖と結合した糖化ヘモグロビンの割合がどの程度あるかを示すもので、ブドウ糖の量が多い状態、すなわち高血糖が続くと数値が高くなる。東京医科大学の鈴木亮教授は同指標について「歴史が長く、国際的に通用する。健康診断や人間ドックでも通常はHbA1cを見る」と説明する。

 この数値が6.5%以上だと糖尿病が強く疑われる。日本糖尿病学会は血糖正常化を目指す際の目標として6.0%未満、また網膜症、神経障害、腎症など糖尿病患者が発症しやすいさまざまな合併症を予防するための目標値として7%未満を掲げる。

 ただ、HbA1c は過去1~2カ月程度の平均値を反映するため、糖尿病の改善・進行状況は分かるものの、一日の中で血糖値が上下動する様子は捉えられない。この結果、「変動が大きい人とあまり変動しない人の数値が同じというケースが考えられる。平均値だけではなかなかリスクを測れない」(鈴木教授)という。

 例えば、AさんとBさんのHbA1cは共に7%だとする。2人に差異はないように見えるが、Aさんの方が血糖値の振れ幅が大きいかもしれない。また、Aさんは1日のうちに大きな上下動が3回あり、Bさんは2回かもしれない。この場合、合併症のリスクは一般的にAさんがBさんより高いと考えられる。

糖尿病の管理や治療について説明する鈴木亮教授

糖尿病の管理や治療について説明する鈴木亮教授

 ◇リスク低減へ新指標

 そうした中、新たな評価指標「TIR(Time in range)」が用いられるようになっている。血糖値が一定の範囲内(1デシリットル当たり70~180ミリグラム)にある時間が長いほど合併症などのリスクが低くなるという考え方に立ち、通常はこの時間帯を全体の70%以上とすることを目指す。海外のある研究では、TIRが85%超の患者はそれ以下の患者と比べて死亡率が低かったといい、鈴木教授は寿命への影響について「直接的には分からないが、ちょうどいい時間帯が長い人と短い人では死亡率に差があることが示唆されている」との見方を示す。

 TIR活用には血糖値の持続的なモニタリング(CGM)が必要になる。日本では血糖値の測定は指先から血液を採取して自分で調べる手法が主流だが、TIRとともにCGM利用も広がりつつある。

 CGMはどのような仕組みか。米デクスコム社の機器を例に取ると、腹部や上腕部に小型のセンサーを取り付けて皮下組織の間質液中のブドウ糖濃度を自動的に測り、即座に無線でスマートフォンなどに送る。同濃度と血糖値には相関関係があるため、血糖値が推測できる。画面にはリアルタイムの数値とともに変動の様子がグラフで表示され、上昇中あるいは低下中といった傾向が一目で分かる。上がり過ぎや下がり過ぎを警告するアラート機能も付いている。

発症後の体験談などを語る星南さん

発症後の体験談などを語る星南さん

 ◇患者「予測基に対処可能」

 モデルの星南さんは18歳の時に1型糖尿病を発症。インスリン治療を続けながらフルマラソンやトライアスロンなどに挑戦し、アフリカ大陸最高峰のキリマンジャロに登頂した経験も持つ。CGMを利用し始めてからは「低血糖や高血糖を予測してくれるので対処できる。今まですごく気を付けていたところを補ってくれて楽になったし、諦める必要がないことが増えた」と話す。

 もちろん、患者といっても一様ではなく、センサーをずっと装着しなければならないことを負担に感じたりする人もいるようだ。星南さんは「豊かなライフスタイルを実現するために、より良い治療法を選択してほしい」と呼び掛ける。

 低血糖回避にも力点

 糖尿病では高血糖の回避に注意が向きがちだ。しかし、血糖値の下がり過ぎにも多くの危険が潜み、心筋梗塞や不整脈などの心血管疾患を発症したり、認知機能が低下したりしやすくなる。重症低血糖になると、体のけいれんや昏睡(こんすい)といった症状が表れ、自力で対処できない羽目に陥る。2型糖尿病患者を対象とした米国の長期研究では、救急搬送が必要なほどの重症低血糖に1回なると、認知症の発症リスクは1.26倍、2回だと1.80倍、3回以上だと1.94倍に上昇するとの結果が報告された。

 こうした弊害を考慮し、上記の新指標では血糖値70未満の時間帯を4%未満にとどめるよう求められる。高齢の患者は重症低血糖になりやすいとされ、インスリンを一日に何度も投与する際などには特に注意が必要となる。懸念がある場合には早めの対応を心掛けたい。

 米国などに比べると、日本のCGM利用の広がりは限定的だ。一般的にインスリン投与の頻度が少なく、年配者が多い2型では特にその傾向が目立つ。鈴木教授は「この10年ぐらいで糖尿病の治療薬や自己管理の機器は目覚ましく進歩した。できるだけ多くの患者に成果が届けられるべきだ」と積極活用を勧める。(平満)

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