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へその緒で難病を治療へ
~国産で細胞医療実現、免疫療法への応用も~

1本の臍帯から間葉系細胞製品が作製されるまで(ヒューマンライフコード社提供)

1本の臍帯から間葉系細胞製品が作製されるまで(ヒューマンライフコード社提供)

 ◇臨床試験で安全性を確認

 長村医師のグループや同社らは、これまで4治験に挑戦。急性GVHD、COVID-19による急性呼吸窮迫症候群(ARDS)は第Ⅰ相臨床試験まで終了し、多発性筋炎・皮膚筋炎(PM/DM)は非臨床試験を実施中だ。

 造血幹細胞移植後の非感染性肺合併症である特発性肺炎症候群(IPS)では、第Ⅱ相試験に成功している。今後は症例数を増やし、有効性を確認する試験を行えるよう、当局と相談を重ねている。

 従来の治療方法だと、炎症が強い患者には、大量のステロイドを使って抑え込むしか手だてがないが、効果が表れないことがある。こうした場合、MSCの出番になる。

 投与のタイミングがポイントで、「ステロイドがMSCを刺激するサイトカインを抑え過ぎていると、MSCが役割を発揮できない。かといってステロイドは炎症を一掃できない。本当に難しいところ」と長村医師。うまくいくと、炎症性サイトカインが減少し、急速にステロイドを使う量を減らせるという。

 長期間のステロイド使用は、あらゆる免疫が抑制されるため、さまざまな感染症にかかる恐れも高まる。一方、MSCは炎症の強い部位にピンポイントで働くとされる。また、生体内で生着せず、3週間ほどで消失する。長村医師は「残らないのも、安全に使えるメリットと言える」と付け加える。

凍結保存するため、届いたばかりのへその緒に処置を施す

凍結保存するため、届いたばかりのへその緒に処置を施す

 ◇さまざまな可能性

 臍帯由来のMSCは、他にどのような可能性があるのか。

 長村医師は、インフルエンザ新型コロナのウイルスを原因とする急性脳炎など新生児や乳幼児の脳障害、造血幹細胞移植時の生着不全の予防などに期待を寄せる。中でも臓器移植の拒絶防止に働くと推測していて「免疫抑制剤の使用を最小限に抑えて『免疫寛容(免疫システムが異物に対し、排除するのではなく受け入れること)』という状態にするには有効ではないか」と話す。

 また、MSCの特徴の一つ「組織の修復」を生かした研究も進んでいる。

 MSCを材料に用い、切断された末梢(まっしょう)神経の〝さや〟となる「神経導管」を3Dプリンターで作製すると、神経が自己再生することが確認されている。

 海外では、iPS細胞からMSCを作製し、GVHDの治療に応用する研究も進んでいる。

 原田社長は「先制的自己再生医療」という言葉を掲げ「難治性疾患は、重症化が進めば進むほど戻すことは難しい。治るうちに治せる医療を実現したい」と言葉を強める。現在、1本45センチほどのへその緒から3000バッグの製品を製造する技術を確立している。これは、約250人の患者治療分に相当するという。製造は東大医科研で行い、凍結保存され次の研究に使われるのを待っている。(柴崎裕加)


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