(第6回)変革が求められる製薬業界
IT企業などとの協働がカギか
いくつか事例を挙げてみましょう。米国Proteus社は、薬剤服用と併せて体内に摂取可能なセンサー技術を活用し、患者の服薬支援製品を開発しました。センサーが胃に届くと、患者のタブレットに服薬情報が自動で記録され、患者の承諾があれば医師との間で服薬情報が共有されます。また服薬を忘れている場合はアラートが発信され、患者に知らせます。現在は複数の製薬企業がProteus社と契約を締結し、患者の服薬支援に乗り出しています。
次に、医療機器企業の事例になりますが、整形関連医療機器の米国Zimmer Biomet社は2016年に、在宅遠隔リハビリテーションのプラットフォームを開発した米国RespondWell社を買収しました。
整形インプラントを中心とする医療機器製品の販売に加えて、患者の継続的なリハビリテーション支援に乗り出しています。整形関連の医薬品を展開する製薬企業が同様のサービスを展開し、医師や患者とのつながりを高めることができるかもしれません。
最後に、日本企業の事例として、眼科領域の主力製薬企業である参天製薬は16年に、緑内障用デバイスを開発する米国InnFocus社を買収しました。眼科関連の医薬品だけでなく、医療機器を通じて新たな治療の選択肢を提供することで医師、患者の満足度を高め、眼科領域に特化したスペシャリティー・ファーマとしての地位を強固にしています。
これらの事例のように、今後は、医薬品と医療機器の融合、医薬品とアフターケアの融合、医薬品とデジタルヘルスの融合、などがますます活発になり、新たな診療ソリューションの開発が加速していくでしょう。
私は、これらの取り組みが大きな成果を上げるためには、製薬企業各社が単独で行うのではなく、複数の製薬企業が協働して事業開発に取り組むことが重要であると考えます。先ほどの事例で言えば、複数の製薬企業が協働して患者の服薬管理支援に乗り出すようなイメージです。
さらに、製薬企業同士の協働だけでなく、医療機器企業やIT企業、そのほか医療や健康に関わるさまざまな企業との協働を進めることが、製薬企業の事業領域を広げ、業界を活発化することにつながるのではないでしょうか。製薬企業が、革新的な新薬の開発とともに、新たな形のイノベーションを生み出すことが期待されます。(CDIメディカル・杉本宗優)
株式会社CDIメディカルは、国内初の独立系経営戦略コンサルティングファームであるコーポレイトディレクションが設立した、メディカル・ヘルスケアに特化した経営戦略コンサルティングファームです。 業界に関する専門的知見と、国内外医療関係者との密接なリレーションシップを基盤として、企業や医療機関の経営課題を解決すべく、さまざまなサービスを提供しています。
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杉本宗優(すぎもと・むねまさ) 株式会社CDIメディカル副査、イスラエル・ドイツ医療機器担当。慶応義塾大学総合政策学部卒、ワシントン大学オーリン・ビジネススクール(MBA)、KPMGあずさ監査法人、ノバルティスファーマ株式会社経営計画部を経て現在に至る。
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(2018/07/07 16:00)