Dr.純子のメディカルサロン

地球人としてできること 獣医師・三好康子さん

 地域と地球に恩返し

 海原 熱帯雨林が減ると、地球の危機ということですが、一般の方にそうした情報が伝えられていないというのが気になります。


 三好 これだけの情報化社会なのになぜ、と思います。マスメディアも繰り返しこの問題を取り上げていますし、ネットにもあふれるほど発信されています。残念ながら、熱帯雨林は遠い国の話で、身近な問題として認識されていないのでしょう。実はたぶん、朝起きてから夜寝るまでの間、ボルネオ産の物のお世話になっていない日本人はほとんどいないと思います。

 私が衝撃を受けた油ヤシプランテーションから作られるパーム油は、日本も相当な量を輸入しています。

 また、いまだに多くの木材が伐採され、日本にも輸出されています。普段、自分が使う紙を含めた木材製品の原産地を気にすることはあまりないと思います。

 ボルネオの市場で売られているカブトガニ。日本では天然記念物だが、ここでは貴重な食料
 熱帯雨林に限らず、植物がなくなってしまえば、酸素を吸うことはできなくなります。普段、私たちは無料で呼吸しているので、酸素の原産地は考えないですよね。

 毎日こんなことを考えて生きていくわけにはいきませんが、ほんの少しだけ自分の消費生活を顧みて、お世話になっている地域と地球に恩返しする気持ちを持っていただけたらと思います。一人ひとりの力は小さくても、日本人全体の消費活動は大きな影響力がありますから。

 海原 三好さんは普段、動物園でお仕事ですよね。どんなお仕事ですか。

 三好 普段は往診専門の獣医師で、往診先の一つに動物園があります。また、地域猫活動をしている団体のお手伝いもしています。常にではありませんが、海鳥の調査に携わることもあります。

 以前は公務員として勤務していましたが、定年までカウントダウンになったので、環境保全に関わりたくて早期退職しました。体力のあるうちにと思って、やりたいことはいろいろ浮かぶのですが、なかなか仕事(=収入)には結び付きません。

 動物と一緒に暮らせる健康な地球

 海原 以前、アライグマにかまれたことがあると伺いましたが、そういう命の危険もあるのですか。大変なのはどんなことですか。

 三好 アライグマに麻酔をかけていた時、かかったと思って首の後ろをつかんだら、もうろうとしながらも、振り返って手首をかまれました。獣医師としては大変恥ずかしいことです。診療所に行ったら、珍しい症例だったからでしょう、時間外なのにスタッフ全員で出迎えていただき、さらに恥ずかしい思いをしました。

 ホームステイ先で地元の人と籠を編む=ボルネオ
 ただ、こちらの命が危険になるような動物を診療することはありません。


 海原 動物との関わりで感じられることを教えてください。

 三好 動物が平和に生きるためには、人間の生活が安定していないとならないと思うようになりました。それは人に飼われている動物だけでなく、野生動物も同じです。動物が好きで獣医師になりましたので、できれば動物のことだけを考えていたいところです。

 若い頃は動物保護に興味はあっても、人間の生活にまで思いをはせることはありませんでした。当たり前のことにようやく気付きました。油ヤシプランテーションは動物のすみかを奪いますが、現地の方の生活が懸かっています。そこを、どう折り合いをつけていくのか。難しいけれど、避けては通れない課題です。

 動物に限らず、生き物は全て本当に神秘的で美しく、興味深いと思います。どの生物も人間のせいで生きられなくなってしまうのは、私は嫌です。将来にわたって、できるだけ長く動物たちと一緒に暮らせる健康な地球と生態系を残したいと思っています。


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