一流に学ぶ 天皇陛下の執刀医―天野篤氏

(第22回) 埼玉知事選に出馬要請 =3日間「その気」に

 現職の上田清司氏は当時、出馬しないとの予測もあった。自民党の後押しがあり、立候補すれば当選確実だという誘惑もあったという。しかし、事が具体的に進み始めると、いろいろな現実が見えてきた。
 「特別公務員になると医師はできない。手術はもちろんできないし、医師を完全に捨ててやるしかない。勤務先(学校法人順天堂)の理事長からは『お前、何考えてんだ。俺は絶対に許さない』と言われるし、家族からも猛反対されて。娘なんか『立候補したら家出て行くから』なんて言いだすし。支援団体からの推薦状が集まるのを見て、こういう人たちのしがらみの中で働くのは無理だと思いました。結局、早い時期に『勘弁してください』と言いました」

 最終的に自民党県連は別の候補者を立てて選挙に臨んだが、結局出馬した上田知事に惨敗する。
 「『知事は誰でもできるけど、心臓外科医の仕事は君にしかできない』と上田知事に言われました。使命感みたいなものを、もう一回掘り起こされたところもありますね」
 政界進出を再度考える可能性について、天野氏は「もうない」と断言する。「ただ、自分が一度、首を突っ込んだ者として、次に埼玉県知事候補を探すときは積極的に協力しないといけないなとは思っています。県立浦和高校の後輩で1人、知事に向いているのがいるので応援したいなと」
 心臓外科医として最高の栄誉を獲得し新たな目標を模索した天野氏だが、県知事選は自分の本分を再認識する良いきっかけになった。(ジャーナリスト・中山あゆみ)

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