一流に学ぶ 天皇陛下の執刀医―天野篤氏
(第5回)日大医学部に入学 =経済格差を目の当たりに
日本大学医学部への入学が決まった天野氏が直面したのが、周囲との経済格差である。当時は私立大学の医学部となれば、親が医師という学生がほとんどだった。世間一般では中流家庭でも、医学部の中では貧乏の部類になる。当時の学費は6年間で計2400万円。天野家にとっては大きな負担だった。
「日本育英会(現・日本学生支援機構)から奨学金も借りましたが、入学に必要なお金は父親が退職金名目で、一族で経営する個人商店から前借りして用意してくれました」と天野氏。さらに年間授業料の72万円を納めるときは母親から分厚い封筒を手渡された。
「普通だったら為替か振り込みでしょう? それをうちの母親は手数料がもったいないから、お前が自分で学校に納めなさいって。実際、持って行きましたが、そういうことをしたのは医学部の中で自分一人でした」と当時を振り返る。
暮らし向きの違いは学生生活のあらゆる場面で感じさせられた。
「友達の家に遊びに行くと、立派なガレージにベンツとかが止めてあって、玄関はドアでチャイムが付いているんです。わが家はガラガラって引き戸だったし、車は個人商店のライトバンぐらいしかなかった。夕食をごちそうになったら、すき焼きで、セロハンで1枚ずつ包まれた牛肉が出てきた。あれは衝撃でしたね」と笑う。
- 1
- 2
(2016/12/12 13:11)