一流に学ぶ 日本女性初の宇宙飛行士―向井千秋氏

(第9回)シャトルでの実験、分刻み =宇宙メダカ、話題さらう

向井千秋さんの乗ったスペースシャトル「コロンビア」(1994年7月、米国ケネディ宇宙センター)
 宇宙から見た地球の青さに感動したり、無重力空間をフワフワと浮遊して楽しんだりする時間は、実際のところほとんどなかった。向井千秋氏らペイロードスペシャリスト(PS)の宇宙飛行の目的は科学実験。米国、カナダ、日本、欧州各国などの計13カ国、7機関が準備した実験装置を使い、スペースシャトル「コロンビア」に搭乗している14日間で82の実験すべてを行う重責を担っていた。

 シャトル内の生活居住区は操縦室の下にあり、その後ろに実験室が備え付けられていた。7人の乗組員が2チームに分かれ、交代でフル稼働する綿密なスケジュール。宇宙に到達し、ヘルメットとオレンジ色の飛行服を脱いで、普段着に着替えると、先行チームの向井氏らはすぐに実験室に向かった。

 「実験室に入った途端、体が変な方向に流されてしまって、急に吐き気に襲われました」。いわゆる宇宙酔いだ。しかし、体調が悪いからといって休むわけにはいかなかった。

 打ち上げ2時間半後から実験を開始。分単位のスケジュールに追われた。各国の研究者から託された実験を、きちんと行って結果を出さなければならないので、休んでなんかいられない。向井氏は、どんなことがあっても実験だけはやり遂げるんだと思っていたという。

 外界の明暗周期が90分のため45分ごとに昼と夜が入れ替わる。日中の活動時間と睡眠時間は人工の照明を使って区別していたが、1日に16回も昼と夜が入れ替わる環境は、体には負担になり、睡眠障害を起こす飛行士もいた。しかし、もともと心臓外科の過酷な勤務に慣れていた向井氏は、いつでもどこでも眠れるという特技の持ち主。「不眠に悩まされるどころか、あっという間に気持ちよく眠りに就きました」

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