一流の流儀 「海に挑むヨットマン 」 白石康次郎 海洋冒険家

(第8回)スポンサー現れる
20年、再挑戦の舞台に

 現実的な話になるが、ヨットレースには大変金がかかる。4年に1度開催される世界最高峰のヨットレース「ヴァンデ・グローブ」を、白石康次郎さんは資金不足から2回断念せざるを得なかった。勝つために新艇を造ろうとすれば、3億円は必要になる。船を運ぶ輸送費や人件費を入れると、その倍の6億円を用意しなければならない。白石さんは2016年のレースのために中古の船を購入。それでも価格は1億円を超え、全部の経費は約4億円に。それが精いっぱいだった。

「ヴァンデ・グローブ」の前、地元の期待が高まる

「ヴァンデ・グローブ」の前、地元の期待が高まる

 ◇資金の工面に苦労

 「サラリーマンの息子の私が、費用を自分だけでまかなうのはとても無理です。これまでスポンサー探しにはとても苦労してきました」

 もしかするとヨットマンが死ぬかもしれないような危険なレースのスポンサーになることは、「ハイリスク・ノーリターン」と白石さんは言う。ただ、金持ちだからヨットで世界一周ができるというわけではないし、ヨットを操ることが上手な人間が皆金持ちというわけでもない。「資金調達は最初の『丘の冒険』。それに『海の冒険』が続く。その両方ができないと、レースのスタートラインに立つことすらできないのです」

 外国選手にも資金集めの苦労はある。ただ、「ヴァンデ・グローブ」の出場艇に「ヒューゴ・ボス(Hugo Boss)」や「ロスチャイルド(Edmond de Rothschild)」のような有名ブランドや投資企業が名を連ねるのを見ると、日本とは環境が違うことを痛感させられる。

 「欧州では、こういう危険なヨットレースのスポンサーになることで、周りから尊敬されるのです」。日本での人気はいまひとつのヨットだが、欧州では人気スポーツだ。白石さんがフランスの街を歩いていると、「応援しているよ。頑張ってね」と声を掛けられる。スポーツイベントの影響力という点でヨットは、サッカーの欧州選手権の次で、自転車レース最高峰のツール・ド・フランスやテニスの全仏オープンよりメディアを通じたインパクトが強いそうだ。

 ◇自分を見てもらう

再挑戦に燃える白石さん

再挑戦に燃える白石さん

 白石さんは資金集めの苦労を覚悟していた。「初めて単独無寄港世界一周に挑戦した時、ヨットの整備に2000万円以上の資金が必要でした。企画書を持って30社以上の企業を半年かけて訪問しましたが、ことごとく断られました」。実績を残してきた今はどうだろう。「企画書を携えて企業を訪ね、スポンサーをお願いしてもなかなか難しいでしょう」。ヨットレースは賞金200万円を獲得できたとしても、エントリーフィー(参加料)が300万円という世界だ。「スポンサーになっていただいても、金銭面でのお返しはまずできない。選手は誰もお金のためにやっていない。だから、自分自身を見てもらうしかないのです」

 スポンサーとしての見返りに、企業名をチーム名にしてほしいと望む企業も世界にはある。しかし、白石さんを応援する企業や関係者から、「『スピリット・オブ・ユーコー』という船名を変えてくれ」という注文はなかった。白石さんの情熱やチャレンジ精神に意気を感じる。金銭的に「ノーリターン」であることは、関係ないのだろう。白石さんに救世主が現れた。

「スピリット・オブ・ユーコー」で完走来す

「スピリット・オブ・ユーコー」で完走来す

 ◇完走に向け決意

 18年10月30日、白石さんが東京都内で記者会見し、単独無寄港無補給世界一周「ヴァンデ・グローブ」への再挑戦を発表した。コースは、フランス西部のヴァンデ県からスタートし、大西洋を南下し、アフリカやオーストラリア、南米大陸の南側を通って南半球を一周し、フィニッシュ地点であるヴァンデ県に戻る。20年秋のスタートに向けて、工作機械大手のDMG森精機をメインスポンサーに「DMG MORI SAILING TEAM」が発足。ヨットのスキッパー(艇長)は白石さんが務める。

 艇の作製や整備のスタッフ、若手セーラーら約10人から成るチームメンバーとともに最新フォリング艇(IMOCA60)の建造も発表。DMG森精機によると、プロの外洋セーリングチームは日本では例がないという。

 白石さんは再挑戦に向け、「前回は華々しい成績で終えられず泣いて帰って来た。今回は新しいヨットで、ぜひ完走し、なるべく上位で帰ってきたい」と意気込みを示した。(ジャーナリスト/横井弘海)


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