一流の流儀 「海に挑むヨットマン 」 白石康次郎 海洋冒険家

(第9回)ヨットマンも船酔いに
オレンジジュースでしのぐ

 ヨットレースにはアスリートとシステムエンジニア、両者の実力が必須だとされる。単独レースに出場するとなれば、なおさらだ。白石康次郎さんは身長181センチで、精悍(せいかん)な風貌をしている。大型ヨットを一人で操るだけに、腕は太い。子どものころから運動神経が良く、ゴルフも相当な腕前だという。

少年野球では強打者

少年野球では強打者

 ◇腕っ節には自信

 「民放テレビの企画番組で、プロゴルファーの石川遼さんをティーショットでアウトドライブしたことがあるんですよ」。子どもの頃、少年野球をしていた時にはホームランをよく打った。もともと、ボールを遠くに飛ばすことに才能があった。それがヨット操船の技術に生きている。

 「ヨットではセールを操作するためにロープを強く引く作業があります。背筋を使わなければならないので、それがショットの飛距離に生きているのかもしれません」と、うれしそうに話した。今年6月に開かれた「ドラコン日本選手権」では、第1次・第2次予選「スーパーシニアディビジョン」(50歳以上)で323ヤードを飛ばし、トップだった。

 若い時は体をガンガン鍛えたという白石さんも、50歳を過ぎて変わってきた。気を付けているのは、トレーニングより「メンテナンス」だという。「今は船に乗ること自体がトレーニングです。空いた時間のトレーニングで難しいのは、体を壊さないこと。体を完全に疲れさせないことやけがをしないことが大切です」。2020年に開催される次の「ヴァンデ・グローブ」を見据えている。

船酔いになることもある

船酔いになることもある

 ◇ヨットにトビウオやイカ

 インタビューで意外な話を聞いた。「実は私は、ヨットの才能に恵まれていないと思います。何年乗っていても、船酔いから解放されません」。昔から海に出ると、3日間から1週間、船酔いで全く食事が取れない状態が続くという。何とか食べてはみたものの、すぐに吐いてしまう。本当に人間とは分からないものだ。「でも、僕だけではないようです。地上と海上の平衡感覚の変化に追い付けないのが原因らしい。ベテランの船乗りも、久しぶりに船に乗った時は船酔いするらしいですよ」

 それでも、ポジティブに考えるところが白石さんらしい。「僕の船酔いは必ず起こります。船酔いしないようにと願うのは『ないものねだり』です」。そのつらさをどう克服するか。いろいろ試してみた結果、オレンジジュースが一番効果があると分かったという。「気分が悪くなって『やばい』と思った時に、とっさにオレンジジュースを飲む。すると、吐いても何とかなります」

ヨットに飛び込んだ魚

ヨットに飛び込んだ魚

 頼れるのは自分だけという状況で地球を一周する。大好きなことをしているからこそ、どんな荒海でもストレスをはね返す。「船酔いが治まればこちらのもの。ヨットには時々、トビウオやイカが飛び込んで来ることがあるのです。しょうゆをたらし刺し身で食べたら、とてもおいしいですよ」と白石さん。冒険家は常に、強靭(きょうじん)な体力と不屈の精神力をキープすることが肝要なのだろう。(ジャーナリスト/横井弘海)


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