女性アスリート健康支援委員会 失敗から学んだ女子指導の鍵

若手の潜在力引き出すベテラン
ママさん選手にも期待―柳本晶一さん


 ◇怒声に込めた二つの意味

 ベテランが若手の力を巧みに引き出す。若手がベテランの闘争本能を呼び覚ます。そんな関係に持って行くまでには、繊細な気遣いも必要だった。

 若手選手をけん引して輝いた吉原知子。アテネ五輪準々決勝の中国戦で=2004年8月、アテネ(時事)
 アテネ五輪の予選を控えた時期に、柳本監督が大山に厳しい練習を課すシーンがテレビで放送されたことがある。大山にもう一段高いレベルに行ってほしいという思いは当然あったが、ベテランのプライドに対する配慮も働いたのだという。

 「吉原も竹下もみんな、メグカナが育つことで時代が変わるのは分かっとるんですよ。この子らが頑張って、自分たちとコラボをしたら、絶対に次代の扉は開けるんだと。でもあまりにも(周囲が騒いで)メグカナ、メグカナとなるとね。やっぱり女性心理としては面白くない。『何言ってんのよ、私たちがいなきゃ駄目じゃない』と。根を詰めて練習していると、空気がとげとげしくなってくるんですよ」

 そんなときに柳本さんは怒声を響かせ、練習姿勢が消極的だったホープに活を入れたのだという。「何が大山じゃ。おまえの(オリンピックに出たいという)夢になんか付き合っていられるか。ええ加減にせえって。メグ、おまえもじゃ、と。今だから種明かししますけどね。僕が(ベテラン選手の胸中を)代弁せなあかんわけですよ(笑)」

 ベテラン選手のガスがスーッと抜けたのを柳本さんは感じたという。ベテランが大山らに励ましの言葉を掛けるようになり、戦う集団ができていった。さまざまな強い個性が融合したのではなく、「結合」したのだという。

 「何かのきっかけでころっと変れるのが選手。それを変えてあげられるのは指導者ですわ」。心を開かせ、厳しい練習に意欲を失わせないための工夫が、苦境にあった全日本女子の再生へとつながった。

 ◇五輪の経験、次世代につなげて

 ベテラン選手の役割は今の全日本女子にも必要だ。2018年10月に日本で開催された女子バレーボールの世界選手権では、34歳の荒木絵里香が存在感を示した。

 荒木は2008年の北京から12年ロンドン、16年リオデジャネイロと五輪に3大会続けて出場した。14年に第一子を出産し、ママになっても競技生活を終わりにせず、チームに戻って再び大事な力となった。

 栗原恵(中央)らと共に北京五輪にも出場した荒木絵里香(左)。準々決勝のブラジル戦で=2008年8月(AFP時事)
 最近は、荒木のように出産を経て競技に復帰するトップアスリートが目立つ。妊娠・出産は体に大きな変化をもたらすが、国立スポーツ科学センターは妊娠期や産前・産後期、子育て期のトレーニングのプログラムを作るなどして復帰のサポートに取り組む。

 柳本さんは、荒木にもう一踏ん張りしてほしいという。「まだ2年ぐらいはやれます。こないだも『おまえ、頑張らないかん』と言いました。オリンピックというのは、2回、3回と経験して分かることもある。それをね、次の世代につなげていかなあきません」(冨田雅裕)


◇柳本晶一さんプロフィルなど

◇心開かせた「再建請負人」 もっと出てほしい女性指導者(失敗から学んだ女子指導の鍵・上)

◇成長の瞬間追い求め  十人十色の選手、栄養管理にも工夫(失敗から学んだ女子指導の鍵・下)




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