女性アスリート健康支援委員会 宮嶋泰子、女性アスリートを大いに語る

日本の現役トップ選手にはない「妊娠、出産、子育て」のライフイベント
~実業団が活動母体のシステムに問題点も―女子マラソン界~ ―女性トップ選手の苦心・奮闘を密着取材 宮嶋泰子氏―(1)


2009年、東京マラソンでゴールした弘山晴美さん(左)。右は夫で監督の勉さん

2009年、東京マラソンでゴールした弘山晴美さん(左)。右は夫で監督の勉さん

 ◇実業団ランナーは分母も分子もアスリート 摂食障害の温床に

 ―日本の実業団というシステムですと、女性アスリートにどのような影響がありますでしょうか。

 「その後、日本では他の競技同様、実業団がマラソンの活動母体になっていきます。実業団は同じ宿舎で寝泊まりをして合宿を繰り返すところが多いですね。合宿所形式でやらずに個人でやるのは資生堂くらいかもしれません。資生堂は自分たちで生活して、合宿をやったとしても、たまに集まるだけで、他の実業団の様に合宿所でみんな同じ食事をしてという生活を365日繰り返す形ではやりません。この実業団の合宿所というシステムが、いろんなものを生んでいると思います。そこにいる段階で、分母も分子もアスリートになってしまう。このインタビューが始まる前に川原会長と話したのですが、そういう中では、少なくとも合宿所にいる間は結婚、妊娠、出産なんて考えないと思います。そうでなく、資生堂のようにサポートはするけれど、一人ひとりが自分の生活をしながらトレーニングをするという形、例えば、弘山晴美さんのように、ご夫婦で生活しながらトレーニングをして、リタイアされてから出産されましたが、そういう形ならいいのですが、どうしても合宿所生活で制限を受けるのが日本のアスリートなのだろうなと思っています。その一つとして私が感じたのは、見えない競争というのが合宿所ではあることです。『私は誰々さんに負けたくない』という気持ちが生まれてきて、摂食障害などになるケースもあります。インタビュー前に川原会長が熱中症のケースでおっしゃっていたのは、一人で走っていれば暑いから止めようとなるのですが、みんなで練習しているから我慢して止めずに走ってしまうという事例も起きています。摂食障害に加えて、妊娠、出産、子育てというライフイベントを無視してしまう状況以外に、悪いところというか、海外との違いはありますでしょうか、川原会長」

 川原会長 選手の故障があります。どうしてもトップアスリートになると選手は故障を隠す傾向があります。

 ―陸上のケースですと、海外はクラブチームが主流で、日本は企業・実業団の中で競争をしています。日本と海外でスポーツ文化の違いはありますでしょうか。

 「米国のクラブでも、その中で葛藤があります。セクシャルハラスメントに関する『ガールズ』という本を読みましたが、体操競技のクラブでも激しい戦いがあって、その中で一番にならないと州の大会、全米の大会に連れて行ってもらえないようなところでは、みんなケガを隠すし、コーチに罵倒されるのが嫌で黙っているなど、いろんな問題が出ています。それはクラブだけの問題ではなく、指導者がどういう人かということが次に問題になってくると思います。だからシステムと同時に、それをコントロールする監督・コーチが、どういうアプローチや考え方で選手に接するのか、そこが大きいと思います」(了)
 
 宮嶋泰子(みやじま・やすこ) テレビ朝日にアナウンサーとして入社後、スポーツキャスターを務め、スポーツ中継の実況やリポート、ニュースステーションや報道ステーションのスポーツディレクター兼リポーターとして活躍。 1980年のモスクワ大会から平昌大会まで五輪での現地取材は19回に上る。2016年に日本オリンピック委員会(JOC)の「女性スポーツ賞」を受賞。文部科学省中央教育審議会スポーツ青少年分科会委員や日本スポーツ協会総合型地域スポーツクラブ育成委員会委員、JOC広報部会副部会長など多くの役職を歴任。20年1月にテレビ朝日を退社、一般社団法人カルティベータ代表理事となる。

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