「医」の最前線 緩和ケアが延ばす命

悔いのない「看取り」のために
感謝を伝える正しい時期とは-緩和ケア〔6〕 流れの中で「死」を受け止める

 看取りというと、皆さんはどれくらいの期間を思い浮かべるでしょうか。最近では人生の最後の「臨死期」=用語説明=をもって看取りと表現することが多いです。ただ、これが誤解を招いているのも事実です。今回は、人の死と看取りについて詳しく解説したいと思います。

一般病院では臨死期にも心電図モニターを装着されることが多いが、緩和ケア病棟などでは一般にそれを用いない(画像はイメージです、大津秀一氏提供)

一般病院では臨死期にも心電図モニターを装着されることが多いが、緩和ケア病棟などでは一般にそれを用いない(画像はイメージです、大津秀一氏提供)

 ◇死の三徴候

 人の死の三徴候(ちょうこう)というものがあります。「心停止」「呼吸停止」「瞳孔散大および対光反射の消失」です。これらを確認して、医師は死亡診断します。ただこれはあくまで便宜的なものです。

 一般的に亡くなる直前は、コミュニケーションが取れない状況がほとんどです。そのため、がんなどの場合を例に取れば、人らしく話せる期間というものは、おおむね臨死期に至る前、つまり亡くなる数日前よりもさらに「前」ということになります。

 逆に細胞レベルで考えれば、死の三徴候は「全細胞死」を意味しているわけではありません。細胞レベルではまだ生きている部分もあるということになります。しかし、私が医療現場に出た約20年前を振り返ると、この三徴候を満たす段階を厳密に「死」として扱う傾向が強くありました。

 ◇聞こえている可能性も

 忘れられないのは、若い男性が急変して亡くなった時の出来事です。母親が「夫が来るので待ってください」と懇願していたのですが、三徴候がそろっていたため、ある医師が死亡確認し宣告しました。母親は泣き崩れ、3年目の医師だった私は「これが本当に正しいやり方なのか」と疑問を抱きました。

瞳孔が5mm以上でライトを当てても縮瞳しないことを確認する(画像はイメージです。大津秀一氏提供)

瞳孔が5mm以上でライトを当てても縮瞳しないことを確認する(画像はイメージです。大津秀一氏提供)

 現在の医学では、亡くなる直前の方の感覚を完全には把握できていません。ただ、耳は聞こえているとよく言われます。そのような可能性もあるわけですが、いつまで聞こえているかは分かりません。

 このため、あくまで便宜的なポイントである三徴候がそろっていても、「向かっている家族を待ってほしい」と願われた時、それを無視してまで死亡確認を行うべきなのかというと、そうではないと思ったのです。

 ◇旅立ちを受け止める

 この疑問は、医師となって5年目に当時日本最年少のホスピス医として着任したホスピス病棟で解消しました。「いつ死亡確認を行うのか」。ホスピス医同士で話したことがありました。

 指導医は「誰かが亡くなる。そうすれば、『いかないで』『まだ早い』などという人も多いでしょう。けれども一定の時間が過ぎると、部屋の空気が変わります。『頑張ったね』『ありがとう』。そのような言葉が出てくるはずです。その時が、死の時間なのではないでしょうか」と言いました。実際、指導医は何時間も待ったことがある、と。

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