「医」の最前線 患者会は「今」

水補給が生命線の難病「腎性尿崩症」
医師の認識不足が死を招く 長男の急逝を契機に患者会

 腎性尿崩症は発症率が30万人に1人と言われる、希少な疾患です。主な症状は大量の尿が出ること。このため、十分に水分を摂取しないと脱水症状を起こして死に至るケースさえあります。成人の尿量は1日約1.5~2.5リットルですが、腎性尿崩症の成人患者は8~20リットルに達します。1時間に1度はトイレに行くのが普通。学童期になってもオムツが取れず、学校行事の参加が難しい子どもも少なくありません。

 ◇乳児は自分で水が飲めず

 腎性尿崩症は大きく分けて、先天性(遺伝性)と後天性(他疾患が原因)がありますが、今回は先天性に関して採り上げます。

「息子に教えられて」と題した腎性尿崩症友の会について報じた新聞記事

「息子に教えられて」と題した腎性尿崩症友の会について報じた新聞記事

 通常、尿は抗利尿ホルモンの働きによって腎臓で濃縮されます。1日に150リットルの原尿がろ過され、そのほとんどが体内に再吸収されるため、実際の尿量は1.5~2.5リットルになります。

 しかし、腎性尿崩症の患者は抗利尿ホルモンへの反応が低いため水を再吸収できず、尿量が多くなります。多量の尿が体内にたまったまま放置すると尿管やぼうこうが肥大するほか、腎臓が水浸し状態になり、腎盂(じんう)腎炎を何度も起こします。腎臓機能が低下して人工透析に至る場合もあります。

 自分で水が飲めない乳児は、早期発見、早期治療が適切に行われない場合、身体的、精神的発達に大きな影響を及ぼします。成人でも意識障害や手術などにより自身で水が飲めない場合、急激に強い脱水が生じて生命の危機にひんします。

 ◇手首骨折、手術後に死亡

 「腎性尿崩症友の会」(以下、友の会)は、私の長男の死を契機に発足しました。

 腎性尿崩症を患っていた長男は15歳の時、自転車で転倒して手首を骨折、救急病院に運ばれたのですが、手術後に意識が戻ることなく亡くなりました。その後、腎性尿崩症患者の手術の危険性に関する情報収集のため、「剛は自転車で転んで死んだ」と題してインターネットに掲載しました。

 その結果、腎性尿崩症の患者が麻酔の前に行う水分制限で脱水に陥ると、後に輸液しても全く吸収されないことが分かったのですが、同時に全国から5人の患者の親が集まり、友の会の発足に至りました。

 当時を振り返ると、長男が亡くなったことを認めたくなかったのかもしれません。子どもを亡くした喪失感があったものの、自分が壊れることへの防衛本能が働いていたためか、悲しいとかの感情は無く、日常生活を送ることに必死でした。

腎性尿崩症に関する講演会

腎性尿崩症に関する講演会

 長男の死から10年ほどたって「子どもの死」というテーマで看護大学から講義を依頼されたのですが、この時は抑えてきた感情が爆発し、講義原稿が涙で書けませんでした。当然、泣きながらの講義になりました。

 ◇命に関わる認知・支援

 腎性尿崩症は極めて希少な病気ですから、友の会は医療関係者を含めた社会的な認知や支援への理解拡大に力を入れています。認知や支援の有無は、患者の命に直接かかわるためです。

 そうした腎性尿崩症の理解を広げる活動の中で、不可解な医師の対応も垣間見てきました。


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