「医」の最前線 新専門医制度について考える

新専門医制度スタートから3年
~新たな仕組みで日本の医療が変わる~ 第2回

 2018年から始まった新しい専門医制度。2021年10月には新制度で認定された初の新専門医が誕生する。専門医制度のマネジメントを担う第三者機関、一般社団法人日本専門医機構で事務局長を務める堀部眞人氏に機構設立の背景と役割を聞いた。

堀部眞人・事務局長

堀部眞人・事務局長

 ◇専門医への受診を分かりやすくすることが目的

 ―日本専門医機構はどのような組織なのでしょうか?

 従来の専門医制度では日本内科学会や日本外科学会など、各医学学会が筆記・実技試験や症例数、単位取得など、独自の基準で専門医資格を認定してきました。現在、日本には100を超える専門医が存在すると言われていますが、それぞれの学会内で運用されています。

 例えば、会員になって講義に出席するだけで認定される専門医もあり、学会の認定基準が統一されていないため、各専門医に質的な不均衡が生じています。さらに、専門医の種類や数が多過ぎて、患者さんが病気になったときに自分がどの専門医を受診すれば良いのかが分かりづらくなっています。

 日本専門医機構は、国民目線で分かりやすい制度を設計し、なおかつ、質の担保がされている専門医を養成・認定するために、中立公正な立場で制度を管理・標準化する第三者機関として、2014年に設立されました。

 専門医を目指す医師は、2年間の臨床研修後に19の基本領域*のいずれか一つの専門医資格を取得することを基本とし、日本専門医機構が認定した専門研修プログラムに基づいて臨床研修を行います。研修施設は地域医療に配慮しながら、大学病院などの基幹病院と地域の協力病院で病院群を形成します。必要に応じて、都道府県の地域医療支援センターと連携し支援しながら、専門研修プログラムを作成、実施していきます。専門医取得後は5年に1回、更新のための試験を予定しており、最新の知識が理解されているかどうかチェックします。

 専門医と言えば、患者さんによってはテレビに出てくるようなスーパードクターをイメージされている方もいるかもしれませんが、日本専門医機構の考える専門医とは、最新の知識を持ち、その時点での標準治療(最新のエビデンスに基づいた治療)を患者さんに提供できる医師であり、いわゆるスーパードクターではありません。

 ◇ライセンスは専門医選びのチェック機能

 ―新制度の対象となる医師は誰なのでしょうか?

 新制度では医学部を卒業して、国家試験に合格後、2年間の臨床研修、さらに3~5年間の専門研修を受けます。その後、希望者は、より細分化されたサブスペシャルティ専門医資格を取る仕組みになっています。

 専門医の資格を取得するまでの期間は現行の学会認定の制度とほぼ変わりません。新専門医(専門医機構認定専門医)の対象となる医師は、2018年に初期臨床研修を修了し、内科専門医、外科専門医、小児科専門医など、19のいずれかの基本領域*の専門研修を受けた専攻医(従来の後期研修医)からとなります。なお、従来の学会に認定された専門医資格は、次回の更新期に専門医機構が認定する新専門医の資格へと今後は移行していく予定です。

 昨今、診療技術の進歩は目覚ましく、医師として専門分野の診療を行うためには、最新の知識や技術を学び続ける必要があります。日本は諸外国のように医師免許の更新制は導入しておらず、医学部を卒業して国家試験さえ通ればライセンスは一生ものです。新専門医制度の専門医資格は、患者さんが受診するに当たって、その医師がその疾病について学び、最低限必要な技術や知識を持ち合わせているかどうかを確認するためのライセンスでもあります。

 現在、2年間の臨床研修後、9割以上の医師が専門研修に進みます。将来、患者さんは医師の専門を確認した上で受診することがスタンダードになってくるでしょう。一方、医療ニーズの高まりから、医師の働き方が多様化しています。官庁の医系技官や法医学者、研究開発、起業、医療コンサルタントなど、専門医資格を必要としない臨床以外の働き方を選択する人も増えています。今後は医師資格の生かし方も変わってくるかもしれません。

 ◇専門医の質が上がることで、より高い医療が受けられる

 ―小児科医や産婦人科医が不足するなど、診療科ごとに医師が偏在する問題がクローズアップされていますが、新しい専門医制度で解決されますか?

 本来、診療科による医師の偏在は、日本専門医機構が携わる問題ではありませんが、日本の医療にとっては非常に大きな問題です。欧米先進国では、必要専門医数を医療の需要から算出し、上限を設けているところもあります。日本では、目指す専門分野は個人の意思に任されていますが、その結果として、診療科偏在が起こって国民の医療に少なからず影響を与えていることは事実です。しかしながら、この問題は日本専門医機構だけで解決できるものではなく、関係諸団体や基本領域学会とも十分に連携を取りながら、慎重に進めたいと考えています。

 ―新制度によって患者さんはいつ頃どのような形で恩恵が受けられますか?

 2021年秋には、初めて日本専門医機構認定の専門医が誕生します。これまでは、各学会の定める規程により、一定の単位を取得すれば専門医試験を受験できましたが、新しい制度は原則として専門研修を終了しないと専門医資格を取得できません。

 研修期間内に、指導医の研修評価を得て研修終了を確認後、初めて専門医試験を受験できます。その後も日本専門医機構認定専門医として、更新要件が統一されますので、専門医の質が以前よりも担保されることになります。

 患者さんはすぐに恩恵が受けられるわけではなく、徐々にではありますが、専門医全体の質が高まります。その結果として、日常的にレベルの高い医療が安心して受けられるようになることは間違いありません。

 患者さんが受診する際に医師の専門医資格の有無を意識的に重視することによって、医師自身も自分の専門や得意分野を自己研さんし、積極的にアピールするようになります。近い将来、質の高い医療サービスがより分かりやすく、より受けやすくなることが期待できます。(了)

*【基本領域】(1)内科(2)外科(3)小児科(4)産婦人科(5)精神科(6)皮膚科(7)眼科(8)耳鼻咽喉科(9)泌尿器科(10)整形外科(11)脳神経外科(12)形成外科(13)救急科(14)麻酔科(15)放射線科(16)リハビリテーション科(17)病理(18)臨床検査(19)総合診療

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