こちら診察室 タンパク質にまつわる栄養の話

何をどのくらい食べる?
~成人のタンパク質摂取量~ 第2回

 前回、タンパク質について栄養学的な話をしました。そうすると、「では、いったい何をどのくらい食べればいいの?」という疑問が生まれてくると思います。そこで今回からは、年代別のタンパク質の取り方を中心に解説します。

 まず成人の場合です。成長期が終わり、大人の身体を持つ成人世代の皆さんがどのようにタンパク質を摂取すれば健康に過ごせるのか、考えてみましょう。

 ◇タンパク質の必要量

 本題に入る前に、エネルギーや栄養素の必要量についての基準があることをご存じですか? 日本では、健康な個人や集団を対象とした「国民の健康の保持・増進、生活習慣病の予防のために参照するエネルギー及び栄養素の摂取量の基準」が策定されています。これを「日本人の食事摂取基準」と言い、現在は2020年版が使われていますが、詳しくは厚生労働省のホームページで確認できます。

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/eiyou/syokuji_kijyun.html

18~64歳に推奨されるタンパク質摂取量

18~64歳に推奨されるタンパク質摂取量

 表1は、日本人の食事摂取基準(2020年版)から各年代のほとんどの人にとって、タンパク質が不足しないための摂取量を抜粋し、作成したものです。18~64歳の成人では、男性の場合1日に65g、女性では50gの摂取が推奨されています。さらに、タンパク質の必要量が増える状況として妊娠や授乳が考えられます。食事摂取基準では、妊娠中の場合は妊娠中期55g、後期75g、授乳中は70gのタンパク質摂取が推奨されています。

 ◇国民健康・栄養調査は平均値

 日本では健康増進法に基づいて毎年、国民の栄養素などの摂取量を調べる「国民健康・栄養調査」が行われています。19年の調査結果(21、22年の調査はコロナ禍のため中止)によると、20~60代の男女において、タンパク質摂取量の平均値は食事摂取基準の推奨量(男性65g、女性50g)を超えていました。つまり「タンパク質を不足せずに摂取できているのではないか」と考えてしまいそうな結果なのです。しかし、これはあくまでも平均値で表された結果であって、自分のこととして考えてみる必要がありそうです。

 では、どのような食品からタンパク質を摂取すればよいのでしょうか。表2に食品のタンパク質含有量の1例を紹介しました。前回も触れたように、タンパク質源となる食品には肉類、魚類、卵類、乳類、大豆製品などがあります。さらに、主食となるご飯やパンなど穀類にもタンパク質は含まれています。

食品とタンパク質の例

食品とタンパク質の例

 食事の落とし穴

 さて、「タンパク質は十分摂取できている」「紹介された食品も毎日食べているから、不足のリスクはなさそうだ」と安心された方はいらっしゃいませんか。そこで、ある女性が次のような食事をした場合を考えてみます。()内はタンパク質量を示します。

  朝食:食パン1枚(4.4g)、ゆで卵1個(5.7g)、サラダ
  昼食:おにぎり2個(4.4g)、お茶
  夕食:ご飯茶わん1杯(4.4g)、焼きザケ(13.2g)、みそ汁

 今回は、サラダなど副菜に含まれるタンパク質は考慮していませんが、この食事ですとタンパク質が32.1gしか摂取できていません。欠食することなく3食きちんと食べていて、量的にも問題なさそうに見えますし、このような食事になることは誰にでもありそうですよね。ここが落とし穴で、油断するとすぐにタンパク質が不足しかねないのです。

 この女性の食事を改善しようとするなら、朝食に牛乳1杯(6.0g)、昼食にから揚げを1人前(13.9g)プラスすることで50g以上のタンパク質摂取となります。

 これらのことから、習慣的にタンパク質を不足しないように食べるためには、食事のたびにタンパク質源が1~2品入っているかどうかを意識することが大切です。

 ◇情報をうのみにしないで

 タンパク質に関する最近の話題を紹介します。世間ではタンパク質、プロテイン、アミノ酸などと記載された商品が多くなったと思いませんか? また、「タンパク質はたくさん取った方がよい」という話を聞いたことがありませんか? このような広がりを「タンパク質ブーム」と表現される方もいらっしゃいます。原因の一つとして、糖質制限によるダイエットが流行したことが考えられます。糖質を制限する分、意識的にタンパク質摂取をされる方が増えているのかもしれません。さらに、スポーツ選手がタンパク質を重視する食事をしていると知るようになったことで、参考にする人もいるように思います。しかし、こういった情報をうのみにすることには疑問があります。本当に自分に必要なのか、まねをしても安全なのかを慎重に検討した上で実施してください。

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