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第7回 再建手術、人工乳房か自家組織移植か
患者の希望と負担も判断材料に 東京慈恵会医科大の現場から

 ◇自家組織移植なら温かい乳房に

 おなかの組織を移植する場合、血流があって温かく、柔らかい乳房をつくれます。腹部の脂肪の量次第ですが、大きい乳房を再建することも可能で、乳房の下垂も再現しやすいといえます。

 デメリットとしては、腹部に大きな傷を生じること、人工乳房による再建と比べて手術時間が長いこと、血栓や血管の折れ曲がりによって移植した組織が壊死(えし)するリスクがあります。

 また、腹部の手術となるため、将来の妊娠を希望するなら選択できません。その場合は、乳房シリコンインプラント法か、背中の組織の移植による再建法が適応となります。

 背中の組織を移植する再建法は「広背筋(こうはいきん)皮弁法」です。皮膚、脂肪、筋肉を前方の胸に移動させ、縫い付けて乳房を再建します。

 広背筋が無くなってしまうため、日常生活に支障を来すと心配かもしれませんが、実際の影響はほとんどなく、血流のある温かい乳房をつくることができます。広背筋は基部で血管がつながったまま移植するので、壊死リスクが低いという特徴もあります。

 ◇乳頭や乳輪の再建も可能

 デメリットとしては背中に傷が残ること、広背筋が薄いためボリュームのある乳房は再建できないこと、手術時間が長いことが挙げられます。まれに、血管の折れ曲がりや圧迫などで移植した組織が壊死してしまうことがあります。

 希望すれば、乳房再建後には、患者自身の組織で乳輪や乳頭を再建することも可能です。乳輪や乳頭の再建も「局所皮弁法」や、反対側からの乳頭移植など、さまざまな方法があります。

 乳輪や乳頭の色調を再現するためにはタトゥーが用いられますが、保険診療の適用外になるため、希望する人は形成外科の主治医とよく相談してください。

 ◇インプラントで待たれる新製品

 乳房再建の希望者は増えている
 乳房シリコンインプラント法については最近、製品の安全性に関わる問題が生じました。保険が適用された13年以降、日本で唯一保険が使える製品だったアラガン社製のインプラントとエキスパンダーが19年7月、全世界で製品回収が必要な「リコール」の対象になったのです。

 これは、テクスチャードタイプと呼ばれる表面がザラザラした製品で、リンパ腫の発生との関連があると取り沙汰されたためでした。

 インプラント関連リンパ腫の発生頻度は約0・03~0・045%と低く、万一発症した際も緩やかに進行します。インプラントなどを挿入中の人が予防的に取り出す必要はありませんが、今まで通りの定期的な通院によるチェックが必要となります。

 現在、表面がつるつるしたスムースタイプのインプラントが再発売され、乳房再建専用ではない円形のエキスパンダーを使って、シリコンインプラントによる乳房再建は再開されています。

 ただし、スムースタイプはもともと、変形したり硬くなったりする「被膜拘縮(ひまくこうしゅく)」を引き起こす問題があります。多くの乳房再建希望に応えるためにも、それらの欠点を解決した新しいインプラントやエキスパンダーのいち早い開発と認可が望まれます。(東京慈恵会医科大学附属病院形成外科・波田野智架)

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