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眼内レンズの種類と選び方 【第4回】

 私たちの目は、外界からの光を脳に送り届ける役割をしています。光はまず角膜(黒目)から入り、瞳孔を通って水晶体(レンズ)でピントが調節され、網膜、視神経を経て脳に届けられます。白内障になると、水晶体が濁って脳にきれいな光が届かなくなり、視力低下やかすみといった自覚症状が出ます。

正常な目(上)と白内障。白内障を患うと、外から入った光が拡散して網膜上に鮮明な像を結ばず、視力が低下する

正常な目(上)と白内障。白内障を患うと、外から入った光が拡散して網膜上に鮮明な像を結ばず、視力が低下する

 手術では、濁った水晶体の中身を取り出し、代わりになる眼内レンズを目の中に固定します。レンズには単焦点レンズ、老視矯正(多焦点)レンズ、およびそれらに乱視矯正機能を付したものがあります。各レンズにはさまざまな種類と度数があるので、皆さんの目の状態や手術後の見え方の希望に応じて選べます。

 ◇9割占める単焦点タイプ

 それぞれのレンズの特徴について紹介していきます。最初は広く普及している単焦点レンズです。日本では90%程度の使用率になっています。

 単焦点レンズの場合には、どの距離に最もピントが合うようにするかを決めることが重要です。焦点を遠く(5メートル以上)に合わせると、およそ1メートルの距離まではピントが合いますが、それより手前は徐々にぼやけてくるという特徴があります。1メートルにピントを合わせる(軽度の近視)とおよそ50センチまで、50センチ(中等度の近視)だと30センチまでというように、距離によってピントの合う範囲(焦点深度)が変わってきます。

 単焦点レンズというと、ピントの合う1カ所だけが鮮明に見えて、その他の距離はぼやけてしまうというイメージを持つ方がいるかもしれませんが、実際にはある程度の焦点深度があり、軽度の近視に設定すれば50センチより手前でもそれなりに見えますし、遠方の視力も裸眼でおよそ0.4程度は期待できます。眼鏡コンタクトレンズの使用経験、手術後の見え方の希望によって選択肢がいくつもあることを知っておいてください。

 担当医が焦点深度を認識していない場合、遠くにピントを合わせるか、近く(40センチ前後)に合わせるかの二者択一を求められ、皆さんの生活を快適にする機会が失われてしまう恐れもありますので、医師側の認識を変えていく必要性も感じています。

 ◇遠近両用の老視矯正タイプ

 およそ15年前に多焦点眼内レンズが登場しました。現在では老視矯正レンズと言われるようになってきましたが、単焦点との違いは焦点深度がより深い、つまりピントの合う幅が広いことです。老視矯正レンズは現在までに飛躍的に技術改良が進み、遠くから近くまでおしなべて見え、眼鏡への依存度を減らせるようになりました。

 初期には、近くが見えるような構造をレンズに持たせると、異常光視現象(ハロー、グレア、スターバーストといった光源の周りに見える光のにじみ)の発生やコントラスト(物がはっきり・くっきり見えること)の低下が問題となっていました。また、遠くと近くは見えても、デスクトップパソコンを見たり料理をしたりといった、伸ばした腕の指先くらいの距離がぼやけるといった難点もありました。これらの問題を解決するために現在では3焦点や5焦点、あるいは焦点深度拡張型などが開発されており、10年前には想像できないようなクオリティーを持ったレンズが多数発売されています。

 しかしながら、レンズによっては異常光視現象がとても強いものや、コントラストの悪いものがありますので注意が必要です。また、老視矯正レンズを選択する場合には、手術代金とは別に眼内レンズ代(片目で20万~50万円)がかかります。各種保険では賄われないので、自分の生活にとって眼鏡コンタクトレンズへの依存度低減がどれほど重要かを考えて選びましょう。

 少し専門的な話になりますが、角膜に大きな凹凸がある(高次収差と言う)場合や網膜疾患がある場合には、レンズの選択はより慎重に考える必要がありますので、担当医に必ず相談してください。

 老視矯正レンズの種類については今回、具体的に紹介できませんが、別の機会に説明できればと考えています。

 乱視矯正機能を付加

 単焦点と老視矯正の両タイプにはそれぞれ乱視矯正機能付きのレンズがあります。乱視の発生源は主に角膜と水晶体です。眼球全体のバランスが原因とする眼球全乱視という考え方がありますが、大きくは角膜乱視と水晶体乱視の強さと方向のバランスによって決まります。

 白内障が進行すると、乱視が強まったり弱まったりする場合があります。これは水晶体乱視の程度が変化することによって起こります。角膜乱視はそれほど変わりません。

 白内障手術では水晶体を除去しますので、手術後の乱視の程度は主に角膜乱視によって決まります。角膜乱視が強い場合には乱視矯正レンズを選択する必要があります。どの程度の乱視で使用するかは医師の判断によるところが大きいのが現状です。

 このレンズの使用をめぐっては、さまざまに議論されるべき問題がありますし、そもそも使用しなかった場合に残る乱視がどの程度であれば使うべきかのコンセンサスが得られていません。こうした現状は変えるべきであり、ぜひ学会などが主導し、啓蒙(けいもう)活動を行ってほしいものです。

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