近年、健康志向の高まりなどを背景に国内外でハーブやサプリメント(HDS)をはじめとする、いわゆる健康食品の消費量が増加しており、それらの使用に伴う健康被害の報告も増えている。米・Sidney Kimmel Medical College at Thomas Jefferson University HospitalのDina Halegoua-DeMarzio氏らは、HDS誘発性肝障害(HILI)に関するレビューを実施。その結果、HDS使用者の4人に1人は医師に伝えていない、HILIの発生率や主な原因物質などの特徴についてLiver Int(2025; 45: e16071)に報告した。(関連記事「非専門医の肝疾患抽出に有用なツール公開」「漢方薬の肝障害は、西洋薬より死亡率が高い」)
薬物性肝障害に占める割合は2005年の7%から2014年には20%に増加
米国植物協議会(ABC)の報告書によると、米国におけるHDSの売上高は2011年に53億ドルを突破し、2010年と比べて4%増加。その後、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の大流行を契機として売上高は記録的な伸びを示し、2020年には初めて100億ドルを超えて112億6,100万ドルに達し、2019年から17.3%増加した。
こうしたHDS消費量の増加を背景にHILIの発生率が上昇しており、米国の薬物性肝障害ネットワーク(DILIN)における薬物性肝障害(DILI)の報告に占めるHILIの割合は2005年の7%から2014年には20%まで増加。DILIの原因物質としては抗菌薬に次いで多い。
しかしHILIをめぐっては、多様な症状や多成分の含有により原因成分の同定が困難、明確な診断基準がない、治療法の欠如、成分確認と安全性確保のための規制監督体制の欠如など多くの課題がある。
そこでHalegoua-DeMarzio氏らは、各国におけるHILIの発生率や主な原因物質、遺伝学的影響、取り組みなどについて評価する目的でレビューを実施した。
使用者は中年女性、大卒者、理由は「自然療法」が多い
HDS使用例の特徴としては、中年、女性、大学卒業以上の学歴、処方薬または一般用医薬品薬の使用中が挙げられる。さまざまな疾患に対する「自然療法」としてHDSを試みるケースが多く、不賛成や使用中止勧告を恐れてHDS使用者の4人に1人が臨床医に伝えていなかった。
米国では食品医薬品局(FDA)がHDS製品を監督しているが、記載されている栄養成分と実際の配合との不一致により多くの製品が回収されており、不当表示率は51%に達するとの報告もある。米国とは対照的に、欧州連合(EU)ではHDS製品はより厳しい規制プロセスを経ており、ハーブ医薬品はEUで登録されるだけでなく、製造業者は特定の品質基準を遵守する必要がある。
処方薬による症例と比べ、HILI例は肝移植・死亡リスクが高い
HILIの発生頻度については、過小診断や過少報告の影響により明確でない。中国本土における大規模後ろ向き研究では、HILIの発生率は10万人当たり6.38と推定されている。アイスランドの集団ベースの前向き研究によると、DILI症例の16%をHDSが占め、発生率は10万人当たり3だった。
HDSによる重篤な肝障害リスクについては、米国の急性肝不全研究グループの報告によると1998~2015年における特発性DILIの報告数は253例で、うち16.3%がHDSに関連していた。薬剤性急性肝不全に占めるHDSの割合は1998~2007年の12.4%から、2007~15年には21.1%へと経時的な上昇が認められた。憂慮すべきことに、HDSによる急性肝不全は処方薬による症例と比べ、肝移植・死亡に至る頻度が高かった(83% vs. 66%)。2015年のコホート研究では、急性肝不全症例の18%以上がHDSに起因し、50%が肝移植・死亡に至っていた。
判別能はRUCAM<RECAM、パターンはR値に基づき評価
HILIの大半は予測が難しく、肝障害の症状も無症候性の肝機能値上昇から、疲労、吐き気、腹痛、黄疸や脳症まで多様である。HILI疑い例の評価に際し、Roussel-Uclaf Causality Assessment Method(RUCAM)のような因果関係評価ツールは、多成分が含まれる、故意または不注意による成分の混入など、HDS特有の要因に対する脆弱性が知られている。RUCAMの改良版であるrevised electronic causality assessment method (RECAM)は、DILI診断の裏付けとなる肝生検や画像診断、再チャレンジに対する反応、薬剤性皮膚反応の有無などが追加され判別能が高い。
HILIのタイプは、肝細胞型肝障害、混合型肝障害、胆汁うっ滞型肝障害に分類される。DILIと同様、R値[(ALT/ULN)÷(ALP/ULN)]に基づき①5超:肝細胞型、②2~5:混合型、③2未満:胆汁うっ滞型-と評価する。HILIの主な原因物質(成分)と用途、経過などは表の通り。
表. HILIに関連する一般的なHDS成分
(Liver Int 2025; 45: e16071)
HLA-B*35:01との強い関連が報告
遺伝学的影響については、緑茶エキス摂取に関連した肝障害とヒト白血球抗原(HLA)対立遺伝子B*35:01との極めて強い関連が報告されている。注目すべきことに、HLA-B*35:01は、ポリゴナム・ムルチフロルム、ガルシニア・カンボジア、ウコンによる肝障害とも関連していた。緑茶エキスのポリフェノール骨格は、その抗酸化能を利用したものであるが、肝障害にも関与している可能性が高い。
以上のように概説した上で、Halegoua-DeMarzio氏らは「HDSへの理解を深め、安全性を向上させる上での最大の障害は、市販されているサプリメントに何が含まれるかを判断することの難しさである。DILI・HILIを予防するために最も重要な戦術は、臨床医、消費者、規制当局の三者がこの問題に対する認識を高めることである」と結論。「米国立衛生研究所(NIH)が設立・管理しているデータベースLiverToxは、2024年5月時点で151種のHDSを含む1,419種の医薬品と、それらの肝毒性の可能性がリストアップされており、HDSに関する情報の確認や肝障害のパターンをより深く理解する上で有用だ」と付言している。
(編集部・関根雄人)