こちら診察室 学校に行けない子どもたち~日本初の不登校専門クリニックから見た最前線
発達障害と不登校の関係
~実態と課題~ 【第9回】
◇ASD特性と学校環境の相互作用
ASDのある子どもの不登校傾向は、以下のような特性と学校環境との相互作用によって生じると考えられます:
1. 社会性の課題
・対人関係における暗黙のルールの理解困難
・状況に応じたコミュニケーションの調整の難しさ
・「空気を読む」ことの困難さによる社会的孤立
2. コミュニケーションの特異性
・字義通りの理解による誤解や混乱
・抽象的な表現の解釈の困難さ
・冗談やユーモアの理解の難しさ
3. 認知特性と環境適応
・予測不可能な状況への強い不安
・変化への適応困難(時間割変更、教室変更など)
・感覚過敏による物理的環境への不適応
4. 学習面での特徴
・興味の偏りによる選択的な注意
・抽象的概念の理解の困難さ
・学習スタイルの個人差
◇ADHDと不登校
ADHDは、年齢や発達に不釣り合いな不注意、多動性、衝動性を主な特徴とする発達障害です。集中の維持が難しい、じっとしていられない、順番を待つことが苦手といった特徴が、日常生活や学校生活に大きな影響を与えることがあります。
ADHDと不登校の関連性については、複数の研究が体系的な知見を提供しています。これらの研究は、ADHD特有の症状が学校生活における適応の困難さを引き起こし、それが不登校のリスクを高めるという関係性を示唆しています。
Wuらの研究では、ADHDと診断された子どもたちは、そうでない子どもたちと比較して、学校でのあらゆる活動において困難を示すことが明らかになりました[8]。特に、不注意症状は学校不適応と強い相関を示し、年齢の上昇とともにその影響が増大する傾向が確認されています。
また、Serra-Pinheiroらの研究では241人の小学6年生を対象に、ADHD特性と学校不適応との関連性を調査したところ、特にADHDの不注意症状が学校不適応に大きく関わっていることが示されました[9]。不注意症状は授業への参加や課題遂行に直接的な影響を与えることが確認されています。
◇ADHD特性と学校環境の相互作用
ADHDの主要な症状は、以下のような形で学校生活に影響を与える可能性があります:
1. 不注意の影響
・授業内容の聴き逃し
・課題や宿題の忘れ物
・指示の見落としや誤理解
2. 多動性の影響
・着席維持の困難さ
・授業中の不適切な離席
・静かに活動することの困難さ
3. 衝動性の影響
・順番待ちの困難さ
・他者の発言への不適切な割り込み
・突発的な行動による問題
これらの特性は、学業成績や対人関係に影響を与え、結果として学校適応の困難さにつながる可能性があります。特に、不注意症状は学習の基礎となる情報の取得や処理に直接的な影響を与えることから、学校不適応のリスク要因として重要視されています。
◇LDと不登校
学習障害(LD: Learning Disabilities)は、全般的な知的発達に遅れはないものの、聞く、話す、読む、書く、計算するなどの特定の能力の習得と使用に著しい困難を示す発達障害の一つです。以下のようなタイプに分けられます:
・読むことの困難(ディスレクシア):文字の読み間違い、読みの速度が遅い
・書くことの困難(ディスグラフィア):文字を正しく書けない、文章構成が苦手
・計算の困難(ディスカリキュリア):基本的な計算が困難、数の概念理解が苦手
まさに、「読み書きそろばん」といった勉強に必要な能力の一つもしくは複数個が脳機能の段階で障害されている状態です。そして、これらはトレーニングを積み重ねても「克服」するのが非常に困難です。
Freemanの報告によると、LDを持つ学生は、学校の欠席率が高くなる傾向があります[10]。さらに、Redmondらは特に高学年での欠席率が高いことを明らかにしました[11]。これは学習障害の存在が、長期的なスパンで不適応を助長していることを示唆しています。
また、Scanlonらの研究によると、LDを持つ学生は、情緒障害・行動障害を持つ学生と同様に、学校を中退する割合が高いことが報告されています[12]。このことは、学習障害が学校への参加意欲に影響を与える可能性も示唆しています。
(2025/04/07 05:00)