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白内障手術で大切な屈折精度
~希望の見え方をかなえるために~ 【第8回】

 ③手術にひと工夫

 残念ながら今の医療技術では、屈折精度100%の達成は困難です。こうした現状を踏まえ、私たちは患者さんに「誤差が出てしまうとしたら、希望より少し近くが見えにくくなっても遠くの視力を優先したいのか、遠くが多少見えにくくなっても近くが見える方がうれしいのか」と尋ね、それに合致する手術に取り組んでいます。これにより、想像していた見え方と若干違ったとしても、皆さんが誤差をネガティブなものと捉えず、メリットを感じられるようになります。他の眼科医もぜひ、この考え方を取り入れてほしいと願っています。

 ここから先はその実践例です。難しければ読み飛ばしてください。表中の数値は測定結果として得られた、術後に想定される近視度数の予測値です。

測定結果は全て予測等価球面値。-1.0だとちょうど1メートル、それより大きい(小さい)と1メートルより遠く(近く)にピントが合う

測定結果は全て予測等価球面値。-1.0だとちょうど1メートル、それより大きい(小さい)と1メートルより遠く(近く)にピントが合う

 ある強度近視の方は、手術後の焦点距離として1メートルを希望していました。もし誤差が出るとすれば、1メートルより遠くが見えるよりも、50~70センチが確実に見えた方がよいとのことでした。

 希望通りの距離が見えるための測定値はマイナス1.0なので、まずはそれに近いレンズを選択します。その結果、度数15.5がよいと一般的には判断されます。

 しかし、測定器Bの結果が正しい場合には焦点距離が1メートルよりも遠くになってしまいます。1メートル超に焦点が合うのは避けたいとの希望だったので、度数16.0を選択しました。

 手術の結果はマイナス0.75となりました。残念ながら希望に沿えず、焦点が合うのは1メートルよりも遠方です。もしも度数15.5を選択していたら、おそらく焦点は2メートル以上先となった可能性が高く、70センチより近くはぼやけて見えたのではないでしょうか。

 上記はもちろん一例にすぎず、測定器Aのデータが最も適当な場合もあれば、波面収差解析装置が正しいこともあります。屈折誤差が生じた場合の善後策を講じておけば、患者さんに満足してもらえる可能性が高まります。(了)

渡邊敬三院長

渡邊敬三院長


渡邊敬三(わたなべ・けいぞう)
 近畿大学医学部を卒業後、同眼科学教室に入局し、大阪府和泉市の府中病院(現府中アイセンター)に勤務。オーストラリア・シドニーでの研究留学などを経て、帰国後は同大学病院眼科で医学部講師として、白内障外来および角膜・ドライアイ外来を担当する。2016年に大阪府熊取町の南大阪アイクリニック院長に就き、多数の白内障手術を手掛けている。
 診療の傍ら、オウンドメディア「白内障LAB」やYOUTUBEチャンネルで白内障や白内障手術の情報を発信している。

【参考文献】

・Darcy K et al. J Cataract Refract Surg. 2020 Jan;46(1)

・Lundström M et al. .J Cataract Refract Surg. 2018 Apr;44(4)

・Data Analysis Committee of the Japanese Society of Cataract and Refractive Surgery.Br J Ophthalmol. 2022 Sep;106(9)

・Watanabe K. Clin Ophthalmol. 2022 Aug 10;16

・Watanabe K. J Cataract Refract Surg. In print

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