こちら診察室 知ってる?総合診療科

第5回 多剤投与の弊害を避けるには 
1人の医師が複数の病気を診る ~総合診療医の出番です~

 高齢者は複数の病気を抱えることが多くなります。必然的に多くの薬を内服する患者であふれてきます。一人の患者が多くの薬を服用するために害が生じている場合、ポリファーマシーと呼ばれています。一概に何種類以上を服用するとポリファーマシーと呼ぶかの明確な定義はありませんが、6種類以上で有害事象が増えるとの報告もあります。 

不要な薬を続けなくて済むよう、主治医とよく相談を

不要な薬を続けなくて済むよう、主治医とよく相談を

 ◇6種類以上で有害事象 

 近年、エビデンス(根拠・証拠)に基づく医療が推進され、多くの知見が得られています。その多くは、ある疾患「A」にかかった患者が薬剤「A1」を服用すると、服用しない患者よりも予後やQOL(生活の質)が良いというものが中心です。 

 これに基づいて、複数の疾患「A」「B」「C」「D」を抱えた患者に対しては、「A1」「B1」「C1」「D1」という薬剤が追加されていくわけです。さらに疾患Aについて薬剤「A1」の効果が小さいと「A2」「A3」を追加した方が良いといったエビデンスがあふれていきます。 

 多くの高齢者が抱える高血圧症糖尿病といった慢性疾患は治療のために複数の薬が使用されています。最近は合剤といって2種類の薬が一つに合成された薬剤が出て来ていますが、それでも6種類以上を服用している高齢者は多くいます。 

 ◇不必要とは言わないが… 

 臓器別に多くの専門医がいますので、病気が異なると受診する診療科も異なり、違うクリニックを受診します。このような場合、ポリファーマシーになりやすくなります。有害事象を減らすため「かかりつけ薬局」を作り、チェック機能を果たすことが推進されています。 

ポリファーマシーを防ぐため、薬の優先度を考える

ポリファーマシーを防ぐため、薬の優先度を考える

 もちろん、そうした工夫は大切ですが、同一医師が複数の病気を抱える患者を診療すると、薬を処方する際にポリファーマシーへの注意が働きやすくなります。 

 ある薬を中止しても、服用し続けた場合と比べて予後は変わらないとったエビデンスが世の中に増えると良いのですが、こういう臨床研究は極めて少ないのが現状です。薬を中止しても大丈夫かどうかを調べる研究は倫理的に問題となりやすいからでしょう。 

 しかし、複数の病気を抱える患者を診る総合診療医は、不必要と言わないまでも、優先度が低いと思われる薬を患者との合意のもとに減らす努力をします。分かりやすくするために、架空の事例で具体的に説明しましょう。

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