こちら診察室 知ってる?総合診療科
第5回 多剤投与の弊害を避けるには
1人の医師が複数の病気を診る ~総合診療医の出番です~
80歳の女性。高血圧症、糖尿病、脂質異常症、高尿酸血症、逆流性食道炎で長年通院中です。薬剤は高血圧症に対して3種類、糖尿病に対して2種類、脂質異常症と高尿酸血症と逆流性食道炎に対してそれぞれ1種類の合計7種類を内服しています。
さらに最近、健康診断で心不全の原因ともなる心房細動が指摘され、血液の抗凝固薬と脈を速くしないための薬が追加されました。その上、骨粗しょう症も指摘されたため整形外科を受診し、治療薬が追加となっています。
薬剤は10種類となってしまいました。この女性の疾患は有病率が極めて高く、決して珍しい状況とは言えません。このような時、総合診療医はポリファーマシーを避けるため、いろいろと考え始めます。
お薬手帳を見ながら悩む平山教授
この女性は、高血圧症を抑えるためサイアザイド系降圧利尿薬を内服した結果、尿酸値が9程度にまで上昇。これに対応して高尿酸血症の薬剤を内服し、尿酸値が6程度まで低下しました。
この状況ならば、尿酸値を上昇させるサイアザイド系降圧利尿薬を中止して他の降圧剤に変更すれば、尿酸値が少しは低下するかもしれません。
女性は高尿酸血症が原因となる痛風発作を起こしたことはありません。痛風発作の心配がないケースで尿酸を下げる目的は、動脈硬化の抑制です。尿酸が関節にたまると痛風になり、明確なメカニズムは不明ですが動脈硬化を引き起こします。しかし、動脈硬化を進める要因としては、高尿酸血症よりも高血圧症、糖尿病や脂質異常症のほうが大きいのです。
うまくいけば、サイアザイド系降圧利尿薬の変更により、高尿酸血症の薬剤を中止できるかもしれません。
◇優先度を考える
脂質異常症については、薬剤なしの状態で「HDL/LDL=60/160」(HDL=善玉コレステロール、LDL=悪玉コレステロール)程度で推移していましたが、内服後に「LDL100」程度に低下しています。
この女性の場合、高血圧症と糖尿病のコントロールが良好であるならば、善玉コレステロール「HDL」が十分にあり、心筋梗塞の既往歴もないことから、「LDL160」には目をつぶって脂質異常症の薬剤を中止し、食事と運動を少しだけ強化してみるのも一つの方法です。
毎日歩くことができるなら、骨密度の値にもよりますが、骨粗しょう症治療薬の効果を待ってみるのも良いと思います。
このような方法を患者にしっかりと説明、合意を得た上で実行に移すかどうかを考慮します。全てがうまく行くわけではありません。しかし、ポリファーマシーの有害性を認識した上で薬の優先度を考えることが重要です。
平山陽示教授
この認識も一人の医師が複数の患者を診るからこそ意識されやすくなるのです。総合診療医が一般的になると、ポリファーマシーの減少も期待できるのではないでしょうか。(東京医科大学臨床教授 平山陽示)
平山陽示氏(ひらやま・ようじ)
1984年東京医科大学卒。88年米国ミシシッピー州立大学生理学教室留学。東京医大第2内科講師、准教授など経て2012年臨床教授。11年東京医大病院総合診療科科長、12年から20年まで卒後臨床研修センター長兼任。2000年から禁煙外来を担当している。循環器専門医、プライマリ・ケア認定医・指導医、禁煙専門医、産業医。
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(2020/08/04 07:00)