こちら診察室 熱中症と対策

熱中症の予防策(前編)
~暑熱環境から身を守る~ 第3回

熱中症を予防するためには

 熱中症は、適切な予防により防げる病気です。熱中症の予防策は身体を冷やすことでも、塩分を多く取ることでもありません。熱中症の発症機序(メカニズム)から考えると、熱中症の予防策はおのずと理解できるでしょう。熱中症は暑熱環境(暑さや蒸し暑さ)により起きる体調不良の総称です。必ず、原因となる暑熱環境があります。暑熱環境では、汗をかくことによる気化熱と皮膚血管を拡張させる放熱で体温を下げます。

 しかし、脱水症が起きることで、これらの体温コントロールが破綻します。その結果、体温が上昇し40度を超える異常高体温になるのです。この暑熱環境から脱水症を経て異常高体温になる経過のうち、予防すべき事項が暑熱環境と脱水症にならないようにすることなのです。異常高体温に至ってしまっては、臓器障害が起こり、病院に搬送されても後遺症を残す、あるいは命を落とす場合があります。皆さんには、熱中症の予防策として暑熱環境を回避することと、脱水症の予防を徹底していただきたいと考えます。

 ◇多いエアコンの不適切な使用

独自調査による熱中症の発生状況

 暑熱環境の予防策は、屋内では「エアコンの適切な使用」、屋外では「暑さ指数(WBGT)」に従った行動の順守です。毎年、熱中症の発生状況には年代別の特徴があります。子どもでは屋外の活動や運動時に、成人では暑熱環境での労働時に、高齢者では屋内の日常生活時に熱中症の発生が多く認められます。

 私が独自に某市における2020年の熱中症の発生状況を調べた結果、屋内におけるエアコン使用が不適切であったことが最も多い原因でした。これらの大部分はエアコンが無い部屋で過ごしていた、エアコンがあっても使用していなかったというものでした。中には、エアコンやリモコンが故障していた、リモコンのスイッチを暖房と押し間違えたなどの事例も見られました。屋内での熱中症の発症は、エアコンさえ適切に使用できていれば、多くは防げた事例でありました。

寒さと暑さを感じる仕組み

 ◇高齢者は寒さに敏感

 エアコンの適正温度の指標として28度という目安が出ています。ただし、個々人によって体感温度は異なりますので、目安としては暑さで寝苦しくなく眠れる温度が考えられます。高齢者の方々は、エアコンや扇風機の使用を嫌がります。

 その理由は、加齢現象により寒さを強く感じるようになるためなのです。人の皮膚には暑さを感じる神経(温感神経=温受容器)と寒さを感じる神経(冷感神経=冷受容器)の2種類が分布しています。

 もともと、人は外で生活していたので冷感に敏感になるように皮膚の表面に多くの冷感神経を、深い部位に少ない温感神経を持って生まれています。加齢と共に両方の神経が減少し、最終的には冷感神経のみが残るようになります。その結果、高齢者は暑さよりも寒さを敏感に感じるようになるのです。その生理的な加齢現象を良く理解して、高齢者は上着や膝掛けを使用してでも良いので、エアコンを使ってもらうようにすることが大切です。

日常生活で注意すべき事

 ◇暑さ指数を知る

 次に、WBGTについて解説します。WBGT(湿球黒球温度=Wet Bulb Globe Temperature)と言われる暑さ指数は、最近は天気予報でも良く出てくる言葉です。暑さ指数は乾球温度計(気温)、湿球温度計(湿度)、黒球温度計(放射熱)による計測値を使って計算されます。単位は気温などのセ氏と同じ「℃」で示されますが、その意味は気温とは異なります。暑さ指数が28を超えると、熱中症の発生が増えると言われています。暑さ指数の計算結果に与える影響は、気温:湿度:放射熱=1:7:2の割合になっています。つまり、湿度の影響が7割という意味です。湿度が上昇したときに暑さ指数が高くなり、熱中症の発症リスクが高まると考えてください。

運動と熱中症の予防

 暑さ指数から考えると、これからの梅雨の季節から熱中症の発症患者が増えてくることが想定されます。

 また、この夏、屋外での活動は、日本生気象学会「日常生活における熱中症予防指針Ver.3」(2013)に従った行動を順守してください。特に、運動に関しては日本スポーツ協会「スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック」(2019)に従った行動を取るようにしてください。

 ◇行動計画を立てよう

 その他にも、外出時には熱中症予防策として次のような準備をしましょう。まずは、暑さ指数を見て行動計画を立てることです。暑さ指数の高い日、時間帯を避けて外出するように計画を立てましょう。外出時の服装は、通気性の良い服装を選んで、できるだけ首筋が露出しないような服装にしましょう。首筋には頸(けい)動脈という心臓から脳へ血液を送る太い血管が通っています。ここを温めてしまうと体温と脳の温度が上昇して、熱中症のリスクを高めます。具体策としては襟付きの服、ストール、つばの広い帽子、手拭いなどにより首筋に直射日光が当たるのを避けるようにしましょう。

 汗をかいたときに拭き取ることができるハンカチやタオルも必要です。うちわやハンドタイプの扇風機も暑さ対策に有効です。そして、大切なのは小まめに水分補給できるようにペットボトルや水筒を持参するようにしましょう。このような準備に加えて、この夏はマスクを着用していますので、10分から15分おきに「3トル(距離をトル、マスクをトル、水分をトル)」ができる場所も行動計画に含めておくことが有用です。とにかく、無理をしないことを最優先にしてください。水分補給に関しては、次回、詳しく解説します。(了)

谷口英喜医師

 谷口英喜(たにぐち・ひでき)

 麻酔科医師 医学博士

 済生会横浜市東部病院 患者支援センター長兼栄養部部長。1991年、福島県立医科大学医学部を卒業。専門は麻酔・集中治療、経口補水療法、体液管理、臨床栄養、周術期体液・栄養管理など。麻酔科認定指導医、日本集中治療医学会専門医、日本救急医学会専門医、東京医療保健大学大学院客員教授、「かくれ脱水」委員会副委員長を併任。脱水症・熱中症・周術期管理の専門家として、テレビ、ラジオに多数出演。年に1冊のペースで、水電解質、経口補療法に関する著書を出版。2021年6月に「はじめてとりくむ水・電解質の管理 上下2巻」を発売。


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