安田浩 医師 (やすだひろし)

産業医科大学病院

福岡県北九州市八幡西区医生ヶ丘1-1

  • 形成外科
  • 診療教授

形成外科 皮膚科 外科

専門

形成外科、皮膚外科一般、とくに皮膚腫瘍、血管腫のレーザー治療、湿潤療法に詳しい

安田浩

日本形成外科学会専門医、日本熱傷学会認定医、日本褥瘡学会認定師の資格を持つ創傷治療の名医として知られる。とくに湿潤療法には早くから取り組み、その普及に努める。インターネットなどを通じてラップ療法が広く知られるところとなり、それに伴った間違った家庭でのケアや不慣れな医師による不適切な治療が社会問題化していることに対し、日本熱傷学会ではラップ療法対策特別委員会を設け、安田医師はその委員長を務めた。ラップ療法の調査を行い実態を把握するとともに、食品用ラップなどの日用品を使わないように求める声明を発表するなどして注意を喚起し、正しい知識を持つ医師が創傷被覆材等を用いて治療を行うよう呼びかけている。

診療内容

同院の形成外科は2005年4月に、これまで皮膚科の専門外来からより専門性の高い診療を目指して形成外科として独立した。
外傷、熱傷、手術後の瘢痕治療から、外傷治療、糖尿病や血管障害による難治性潰瘍や褥瘡に対する外科的治療、レーザー治療、皮膚、軟部組織の再建手術、眼瞼下垂や陥入爪(巻き爪)の形状記憶合金ワイヤーによる矯正まで幅広い疾患に対応している。形成外科はもとより、皮膚科にも精通する安田医師はその手腕により同科の診療科長として全体を統括している。また、日本形成外科学会専門医のほか、日本熱傷学会認定医、日本褥瘡学会認定師、皮膚腫瘍外科専門指導医等の資格を持ち、創傷治療の名医としても知られ、とくに湿潤療法には早くから取り組み、普及に務めて来た。
一般的なキズややけど、褥瘡(床ずれ)などの創傷の治療法は2000年に入って湿潤療法という新しい治療法が急速に普及し始めたことから、大きな変化を遂げている。従来は消毒液による消毒とガーゼによるキズの保護が一般的であり、スルファジアジン銀クリーム(ゲーベンクリーム)という殺菌クリームを塗って感染を予防していた。これに対して湿潤療法は消毒液もガーゼも必要としない、いわば逆転の発想による治療法である。そのため患者はもちろん、治療をする側の医師でさえも戸惑いや抵抗感があることがしばしばである。湿潤療法では傷口を水道水によって洗浄することで消毒し、異物があればピンセットなどで慎重に取り除く。異物が深く入り混んでいる場合や家庭ではきれいに取れない場合は病院に行って処置をしてもらうことが必要だが、消毒液はもとより、ゲーベンクリームや通常のガーゼなども必要としない。ただ、傷口の清潔と被覆シートによる湿潤環境の維持を図るという画期的な治療法である。この湿潤療法が普及しているのは従来法では得られない大きなメリットがあるからで、そのメリットとはキズの治りが早く、傷跡ができるだけ目立たなくなり、しかも治療に伴う痛みがないというもの。こうしたメリットは創口から染み出る滲出液を活かすことから得られる。この滲出液は細胞の成長や再生を促す成分を含んでいて、滲出液に触れることで損傷した皮膚の細胞が増殖・移動し再生されていく。湿潤療法はこの滲出液によって傷口を常に潤った状態を保つことで、細胞増殖の力を存分に発揮させてキズを治す治療法である。湿潤療法では傷の上に被覆剤を貼ることで傷を密閉環境におくが、そのため傷口の感染が抑えられるほか、乾燥による神経への刺激が少ないため痛みが少ない。これまでの治療法は湿潤療法に対して、傷口を乾燥させるためドライヒーリングと呼ばれる。ドライヒーリングでは傷が乾いてしまうため、滲出液による細胞増殖の活動が思うように進まないばかりか、形成されたかさぶたの下で正常な細胞が壊死してしまう。表皮の再生はかさぶたによって妨げられるのでどうしても傷痕が残ってしまうことになる。
湿潤療法ではかさぶたを作らないようにするのだが、それは表皮の再生をスムーズに進めてなめらかな皮膚を再生させて傷痕が目立たなくするためである。従来法で創部の感染を防ぐ目的で用いられてきたゲーベンクリームについて「ゲーベンクリームには細胞傷害性があるほか、クリームという基材の皮膚浸透性が高いため、塗ると患部が痛くなるので感染が起きた場合以外は使う意味はありません」と安田医師は言う。また、従来法のようにガーゼを用いた場合は創部が乾燥して固着してしまい、ガーゼ交換時に痛みが伴うばかりか、皮膚を損傷したり、上皮細胞の増殖阻害などを阻害する。応急処置でガーゼを当てることはかまわないが、そのまま長時間放置すると固着するので乾燥しないうちに処置をすることが肝心である。
やけど(熱傷)の場合も湿潤療法により、早くきれいに治すことができる。熱傷面を冷却しながら、常温の水道水による洗浄を行う。小児の場合は体幹部を冷やしすぎないように注意する。熱傷治療用の被覆材があるので、それを患部に貼り付ける。ワセリン軟膏を被覆材に塗布してもよい。ワセリンは皮膚に浸透しにくく、キズ口を湿潤に保ち、患部への刺激を和らげる保護効果もある。安田医師は創傷被覆材はワセリンをコーティングしたガーゼ『アダプティック』やシリコンゲルメッシュを表面にした『エスアイエイド』などをよく使用する。ただ、この湿潤療法で注意すべき点はキズが湿潤療法の適応になるかどうかの診断にあるといっていい。熱傷の深度が深い場合や感染が起きてしまった場合などは、組織の切除などが必要になるため、湿潤環境の維持だけでは治らないばかりか、感染が悪化する危険性もある。「熱傷の深度や面積によっては専門の医療機関の受診が必要」と安田医師は言う。
やけどは傷の深さによって1度から3度に分類される。1度では赤みとヒリヒリした痛み、2度では水疱ができ、3度では表皮が硬くなって灰白色になる。基本的に応急処置のみで問題ないのは2度の浅達性熱傷(SDB)までであり、2度でも深達性熱傷(DDB)以上のものは、専門医療機関で外科的な処置を含めた治療の検討が必要になる。2度の熱傷が全身の15%以上など受傷面積が広い場合も同様に専門医療機関での治療が検討される。
時間経過とともに炎症が進む場合もあるため、専門医でも受傷直後に見分けるのは難しいと安田医師はいう。感染が起きたり2週間で治らない場合も、専門医への受診が必要としている。

湿潤療法の一つであるラップ療法は1990年代後半から、床ずれの治療に食品用ラップなどが使われたのが始まりである。その後、ヤケドや傷にも効くとインターネットなどで広まり、身近にあるラップで手軽にキズが治せるというので家庭でラップ療法を試みるケースなどが増えてきた。このラップ療法の普及とともに、家庭で行って傷を悪化させたり、湿潤療法に不慣れな医師による不適切な治療などが増えて社会問題化を懸念した日本熱傷学会では「ラップ療法対策特別委員会」を設け、警鐘をならしている。安田医師はこの委員会の委員長に就任し、会員からの報告や文献による実態調査を行った。それによると回復の遅れや症状の悪化などのトラブルが発生しており、なかには敗血症の併発や大きなヤケドに医師がラップ療法を行い、重症化したケース、糖尿病の60代男性の低温ヤケドにラップ療法を行い、患部が腐って足を切断したケースなど深刻な問題に発展しているケースがあることを把握した。そのため、同学会は食品ラップなどの日用品は基本的に使わないよう求める声明を出し、安田医師は「やけどは症状の軽重によってそれぞれ適した治療法がある。湿潤療法の効果は確かめられているが、正しい知識を持つ医師が創傷被覆材で行わないと危険である」と注意を呼びかけている。
湿潤療法は感染症を起こしている傷には用いないことが基本であり、被覆剤は適度な湿り気を保つ創傷被覆材が望ましいこと、感染の兆候があれば、他の治療法への切り替えを検討することが必要であるとし、安田医師は正しい知識と適切な治療法によって創傷治療に当たることを訴えている。

医師プロフィール

1984年 産業医科大学医学部卒業、産業医科大学皮膚科研修医、以降産業医科大学で皮膚科を、金沢医科大学で形成外科を研修。
1988年 金沢医科大学形成外科助手
1991年 産業医科大学皮膚科助手
1995年 医学博士取得
1998年 同講師
2003年 同助教授
2005年 産業医科大学病院形成外科診療科長
2007年 呼名変更で准教授
2014年7月 産業医科大学病院形成外科診療教授