急性腹症 家庭の医学

 急性の腹痛を起こす疾患のなかで、診断と治療をただちにしなければならないものを急性腹症と呼びます。冷や汗をかくほどの腹痛は重篤な疾患である可能性が高く、意識状態や血圧・脈拍、呼吸数などの全身状態が重要です。
 診察にあたってもっとも重要なポイントとなるのは、腹膜(ふくまく)刺激症状があるかどうかです。これは炎症が腹膜を刺激して、その結果、おなかが硬くなってくる症状です。痛みのある場所の腹部の筋肉が硬くなり(筋性防御)、診察でその場所を押して離すときに痛みがひどくなります(反跳痛〈はんちょうつう〉)。さらにひどくなるとおなか全体が硬くなって、汎発(はんぱつ)性腹膜炎の状態になり、きわめて重篤な症状を起こします。
 急性腹症の分類としては、①腹膜刺激症状があって緊急手術を要するもの、②腹痛はあるものの腹膜刺激症状を欠くもの、③痛みはひどくないものの消化管出血がおもな症状であるもの、などに分けられます。外科的な手術が必要な疾患としては、消化管穿孔(せんこう)、穿孔性虫垂炎、急性胆嚢(のう)炎穿孔、異所性(子宮外)妊娠破裂、卵巣茎捻転(けいねんてん)、肝臓破裂、腹部大動脈瘤(りゅう)破裂、腸間膜動脈塞栓症などがあります。外科的な処置が必要なものの、内科的治療で当面経過がみられるものとしては、胆石胆嚢炎、急性膵炎、機械性腸閉塞、急性閉塞性化膿性胆管炎、尿管結石などがあります。
 外科的処置を必要としないものには、糖尿病性ケトアシドーシス、ポルフィリア、心筋梗塞、紫斑(しはん)病、月経困難症などの疾患があります。
 急性腹症を起こす疾患は必ずしも消化器系の病気とは限りません。心筋梗塞や腹部大動脈瘤乖離(かいり)・破裂がひそんでいることがあり、医師にすみやかに診断をしてもらう必要があります。

(執筆・監修:国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院 名誉院長 大西 真)