アレルゲンの侵入経路と症状 家庭の医学

 アレルゲンは、からだへ侵入する経路によって吸入アレルゲン、経口アレルゲン、接触性アレルゲンなどに分けられます。薬剤ではそのほか、血管内、筋肉内などへの投与があります。

■吸入アレルゲン
 吸入アレルゲンには室内塵(しつないじん:ハウスダスト)、ダニ、イヌ、ネコ、ネズミ(ハムスターも含む)、ウサギ、小鳥などの動物の毛・ふけ・羽毛、スギ、カモガヤやブタクサなどの花粉、カビなどがあります。室内塵に含まれる主要なアレルゲンはダニです。
□ダニ
 アトピー性気管支ぜんそくや通年性のアレルギー性鼻炎のもっとも重要な原因の吸入アレルゲンは、室内塵中に含まれるチリダニ科のヒョウヒダニ(ヤケヒョウヒダニ、コナヒョウヒダニ)の糞(ふん)や死骸です。皮膚への接触によってアトピー性皮膚炎の悪化の原因にもなります。
 ヒョウヒダニはヒトを刺すダニではなく、ヒトのふけ、あか、食物のカスなどをえさとするダニで、食卓のまわり、じゅうたん、寝具、ソファ、綿ぼこりの中などに生息しています。そのため、室内塵ダニともいわれます。温暖で多湿の環境を好み、夏に多く発生します。
 最近、ダニによるアレルギー疾患がふえているのは、家屋の密閉性、保温性が高まり、夏以外の季節でもチリダニが繁殖しやすくなったのが大きな原因といわれています。アトピー性ぜんそく患者の8割以上がチリダニのアレルゲンに対するIgE抗体をもっていて、特に小児ぜんそくではその割合が高いといわれています。空中に舞い上がったダニの死骸、糞がアレルゲンとなりますが、もっとも多くダニにさらされるのは、就寝中にダニの発生源である布団から至近距離でダニアレルゲンを吸入するときです。
 ダニアレルゲンへの曝露(ばくろ)を減らすには、室内の通気をよくする、じゅうたんなど敷物を置かない、こまめに布団カバーやシーツを洗ってとり替える、布団を乾燥させるなどの方法でダニの繁殖を抑える、アレルゲンをまき散らさない型の掃除機で布団、床のダニ抗原を吸引除去する、大掃除をすみずみまで徹底的におこなうなどの方法があります。また、高密度繊維製の布団カバーやシーツでダニアレルゲンを通過させない方法も有効です。ただし、これらの対策は複数を組み合わせることが重要で、1つだけでは効果は小さいです。
□シックハウス(シックスクール)症候群
 最近、家屋や家具から放出される化学物質によって目、鼻、咽頭(いんとう)の刺激症状、皮膚の紅斑(こうはん)、湿疹、じんましん、疲れやすい、頭痛、喘鳴(ぜんめい)などの症状が起こるシックハウス症候群(原因が学校や幼稚園の建材や建具である場合は、シックスクール症候群といいます)が問題となっています。
 その大部分はアレルギーではなく、ホルムアルデヒド、トルエン、キシレン、シロアリ駆除薬(有機リン酸系殺虫薬)、プラスチックの可塑(かそ)剤(フタル酸エステルなど)などによる直接的な刺激や中毒が原因と考えられています。

■経口アレルゲン
 経口アレルゲンのおもなものは、卵、牛乳、大豆、ソバ、小麦、エビやカニなどの海産物、果物、ナッツ類、各種の食品添加物、着色料、防腐剤、経口薬剤です。卵、牛乳がもっとも頻度の高いアレルゲンです。

■接触性アレルゲン
 接触性アレルゲンのおもなものは、化粧品、洗剤、外用薬剤、装飾金属(ニッケル、コバルトなど)、歯科用金属、ウルシなどの植物です。

■アレルゲンの侵入経路による症状
 吸入によってはアレルギー性鼻炎、ぜんそく、過敏性肺臓炎など気道・肺の病気が、経口によっては下痢、腹痛、嘔吐(おうと)などを伴う胃腸炎が、接触によってはじんましんや皮膚炎などの皮膚疾患が起こります。しかし症状は、必ずしもアレルゲンが侵入した臓器に限られません。複数臓器の症状が急激に生じるのがアナフィラキシーです。
 食物アレルギーで胃腸症状はないのに、じんましんやぜんそくが起こることがあるように、その人のからだの中で特に敏感な臓器やアレルギー物質が分解・蓄積される場所で症状が起こることもあります。

(執筆・監修:帝京大学ちば総合医療センター 第三内科〔呼吸器〕 教授 山口 正雄
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