肺結核症〔はいけっかくしょう〕 家庭の医学

 肺結核は結核菌による肺内への感染症ですが、結核は肺だけでなく、リンパ節や骨、腎臓、脳をはじめとする、全身のいろいろなところに病巣をつくるのが特徴です(肺外結核)。感染経路としては、患者のせきやくしゃみで結核菌を含んだ水しぶき(飛沫)が空気中へ放り出され、空中でその水分が蒸発したあとも結核菌が浮遊し、それを同じ空間にいる未感染者が吸入することで感染します(空気感染=飛沫核感染)。初感染者のうち、すべての人が発病するわけではありません。健康であれば、自身の免疫力で結核菌を抑え込みます。しかし病気などで免疫力が落ちたりすると、抑え込んでいた結核菌が活動して発病する可能性があります。感染したけれども発病していない人は潜在性結核感染症として、6カ月間の服薬により発病の予防をおこないます。
 結核は全世界人口の4分の1が感染しているとされる人類最大の慢性感染症です。日本での結核患者は高齢者が多いのですが、最近は外国生まれの20代の結核患者もふえてきており、今後の課題でもあります。日本の結核罹患(りかん)率(人口10万対)は減少傾向にありましたがこれまで10を切ることはなく、先進国のなかでは珍しい中まん延国でした。しかし2021年の結核罹患率がついに9.2となり、低まん延国になりました。2022年の結核罹患率は8.2であり、前年から引き続き継続されています。日本の結核罹患率は、米国など他の先進国の水準に年々近づきつつあり、近隣アジア諸国にくらべても低い水準にあります。2020年からの減少は新型コロナウイルス感染症の影響もあるのではないかと考えられています。マスク着用により飛沫核の吸入が減ったこと、密にならない環境での生活、海外からの人の移動が減ったことなどが考えられます。今後の罹患率の動向は注目されるところです。

[症状]
 2週間以上続くせきやたん、発熱など、寝汗、倦怠(けんたい)感、体重減少がおもな症状です。HIV感染者、血液透析患者、生物学的製剤やステロイドを使用している人、糖尿病やがん患者、喫煙者は、肺結核を発病する危険が高いといわれます。
 早期診断が重要なため、2週間以上続くせき症状などがあれば、医療機関を受診してください。また、定期健康診断では胸部X線検査を受けることが大切です。

[診断]
 画像診断(胸部X線と胸部CTスキャン)での肺の異常陰影を確認し、結核菌を証明する喀(かく)たん抗酸菌検査(塗抹検査、遺伝子検査、培養検査)がおこなわれます。喀たんが出ない場合は胃液を採取して抗酸菌検査をおこなうこともあります。画像検査で肺結核が疑われても、喀たん抗酸菌検査などで結核菌が検出されない場合には、診断のために気管支鏡検査をおこなうことも考慮されます。

[治療]
 喀たん塗抹検査が陽性の肺結核の場合は、菌を排出していると考えられるので入院で治療を開始します。陰性で軽症であれば外来での治療となります。治療薬は単剤での治療や、途中で服薬をやめてしまうと薬に対する抵抗力をもってしまい、薬が効かない耐性結核菌になってしまうので、標準療法は3剤以上の多剤併用療法となります。リファンピシン(RFP)、イソニアジド(INH)、ピラジナミド(PZA)、エタンブトール(EB)またはストレプトマイシン(SM)を用いて初期治療を開始し、計6~9カ月間複数の薬を内服します。
 病変の性状やひろがり、基礎疾患の有無により、投薬期間を延長することもあります。そして、確実に治療をおこなっていけるように、医療従事者が服薬を見守るしくみを取り入れています(DOTS:Directly Observed Treatment, Short-course)。また、結核の治療費用は届け出をすることで公費負担が受けられます。

(執筆・監修:順天堂大学大学院医学研究科 助教〔呼吸器内科学〕 大倉 真喜子)
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