疲労回復と睡眠 家庭の医学

■疲労とその回復
 働きすぎや運動のしすぎは疲労を招きます。また、肉体的な疲労のみならず、仕事や人間関係のストレスからくる精神的な疲労もあります。
 疲労は一種の防御反応です。疲労を自覚するからこそ、組織や器官が回復不能になるまで使いすぎることを防いでいるといえます。疲労はさまざまなかたちであらわれます。軽い場合は筋肉の疲れ、目の疲れや腰の痛みなど、部分的な疲労としてあらわれますが、これは休養によって簡単に回復します。
 これに対して、全身的な疲労、精神的な疲労があります。これは動作がにぶくなったり、誤りが多くなったり、意欲がなくなったり、人と話したくない、怒りっぽいなど、心身の調和がみだれた状態となります。これらの全身的な疲労の回復には睡眠がもっとも有効です。
 一晩休んでも疲労が回復しない状態というのがあります。いわゆる過労です。十分眠ったにもかかわらず、朝起きたとき気分が重く、意欲がわかない、食欲がないなどの症状が出現した場合はあきらかに過労です。十分な休養をとるとともに、積極的な疲労の回復を試みましょう。
 疲労の回復には、身体面・精神面の両面が必要です。たとえば、入浴やマッサージ、サウナなどは血行を改善することによって疲労により生じた老廃物を取り除き、また、神経をリラックスさせることによって筋肉疲労を回復させます。軽い運動やぬるい湯に長くつかること、適度の飲酒なども心身の緊張をときほぐし、疲労を回復します。
 疲労回復の手段として、レクリエーションも有効です。1日の仕事のあとで、音楽を聴いたり、スポーツをしたり、適量の酒を飲んで楽しい会話をしたり、あるいは週末には旅行やスポーツをおこなうことは、積極的な疲労回復手段であるといえます。

■十分な睡眠の必要性
 疲労回復のために睡眠は必須です。睡眠によって心身ともに完全な休養状態に入るからです。すなわち、脈拍や呼吸はゆっくりとなり、血管はゆるんで血圧は下がり、筋肉は緊張から解放されます。エネルギーは最低限しか使われず、体温も低くなります。また、中枢神経系も極度の休憩状態になります。この完全な休養状態によって疲労は完全に回復します。
 睡眠には2つの型があります。レム睡眠とノンレム睡眠(深眠)です。
 その違いは脳波や眼球の動きをみることによってわかります。寝入ってから1~1.5時間しますと完全な深い睡眠状態に入ります。これをノンレム睡眠といいます。ところがそれにひき続いて、脳波や眼球運動でみて、昼間目覚めているときと同じような状態を呈する睡眠になります。この睡眠のことを「目が速く動く(rapid eye movement)」という意味でレム(REM)睡眠と呼びます。
 この2つの睡眠の型が一晩の間に2~3回交代します。そのなかで、ノンレム睡眠は疲労の回復には欠かせません。激しい運動をおこなった日の夜には、特にこの睡眠が長く必要になります。
 いっぽう、レム睡眠はこころのはたらきに関係が深い睡眠であり、1日の間に受けた印象を定着させたり、情緒や欲求を正しくあらわすのに不可欠な睡眠です。つまり、1日の間に受けたこころのひずみを回復させる睡眠といえるかもしれません。また、夢はこのレム睡眠の間に見ています。つまり、日常の意識下にひそんでいる欲求などを夢によって解放しているのかもしれません。いずれにしても、レム睡眠はこころの健康にとって大切なものです。
 睡眠は長ければ長いほどよいというわけではありません。長く寝たのに疲労が十分回復しないということがしばしばあります。これは眠りが浅いためです。睡眠による疲労回復は、睡眠の時間と深さをかけあわせた量に関係しています。一般に必要な睡眠時間は年齢で違います。年齢が若い人ほど長く、成人に向かうにつれて短くなります。
 しかし必要な睡眠時間は必ずしも、一般にいわれるような平均的な睡眠時間で決まるものではありません。長い睡眠時間を必要とする人、短くてもよい人など、人によってさまざまです。この睡眠時間の長短は、レム睡眠の長さによって決まるともいわれており、ノンレム睡眠の長さはあまり人によって変わらないようです。
 睡眠が十分であるかどうかを知るには、朝起きたときの気分が大切です。朝自然に目が覚めて、快適な気分で起床でき、朝食に食欲があるようならば、睡眠は十分といえます。
 よく眠るためには、睡眠に適した環境をつくることが重要です。室温をやや高めにし、静かな部屋にすることが必要ですが、このほかに、あまりおなかを減らしたり食べすぎたりするのもよくありません。また、興奮作用をもつお茶やコーヒーを就寝前に飲むのは避け、精神的な安らぎをもつことが必要です。受験勉強などのように、頭を激しく使ったあとには、軽い体操などで頭の興奮をやわらげることも必要でしょう。
 眠れないときに眠らなければならないと考えると、こころにあせりを生じていっそう眠れなくなるものです。こんなときは、数字を数えるなど、ほかの単純なことをおこなうことによって脳のはたらきを切り替え、興奮をやわらげることが必要です。

■睡眠時無呼吸症候群
 睡眠中に10秒以上呼吸がとまる状態を睡眠時無呼吸と呼びますが、最近生活習慣の変化と肥満の増加に伴い睡眠時無呼吸が増加しています。睡眠時無呼吸の原因の多くは内臓肥満に伴って気道(空気の通り道)が狭くなり、仰向けになることにより、その狭くなった気道が舌根でふさがれて起こります。重症の睡眠時無呼吸になると、一晩中呼吸がとまっては再開をくり返すため、睡眠時間が十分であっても眠りが浅くなり睡眠の質が低下します。その結果、昼間の過度の眠気、起床時の爽快感の欠如などさまざまな症状が出現し、このような状態を睡眠時無呼吸症候群と呼びます。さらに重症の睡眠時無呼吸があると、心臓や脳卒中など血管の病気がふえることがわかっています。
 男性でふとり気味で夜間に大きないびきをかいている人、昼間会議などで居眠りをしている人は睡眠時無呼吸の可能性があります。有効な治療法があり、治療することにより熟睡できるようになり生活の質(QOL)が改善し、将来の心臓や血管の病気も予防できる可能性もありますので、疑いのある人はチェックを受けてください。しかし、なによりも重要なことは予防であって、ふとっている人は減量を心掛ける、禁煙、節酒といった生活習慣の注意がもっとも重要です。

【参照】歯と口とあごの病気:閉塞型睡眠時無呼吸症

(執筆・監修:自治医科大学附属さいたま医療センター 総合医学第1講座 主任教授/循環器内科 教授 藤田 英雄)