たばこ・酒
■百害あって一利もない
喫煙の有害性は、いまさらいうまでもないでしょう。疫学的にもその有害性は証明されています。
1日40本のたばこをすう人の死亡率は、すわない人の2.2倍です。紙巻きの煙には、肺がん、慢性気管支炎、肺気腫の誘因となる物質が含まれています。またニコチンには、血液を濃くし、血液の流れをわるくし、血栓をつくることで動脈硬化に導く物質が含まれています。実際喫煙者では心筋梗塞の発症が多いのも事実です。また、たばこをすう妊婦の未熟児出生率は、すわない人の2倍です。
これだけ有害で、1つも有益な作用がないたばこがやめられない理由はなんでしょうか。それはニコチン依存症という一種の病気にかかっている状態と考えられています。たしかに、喫煙者にとっては多忙な現代の日常生活のなかでは、たばこは一服の清涼剤かもしれません。しかし、それをみとめたうえでも、これだけの喫煙の害を理解し、さらにたばこをすわない人にとって煙がきわめて不愉快であることを考えれば、1日も早く禁煙する必要があるでしょう。また、最近ふえている加熱式たばこもその煙にはニコチンや発がん性物質などの有害な物質が含まれていて、たばこと比較して害は少ないとは証明されてはいないことに注意が必要です。医学的には加熱式たばこも禁煙の対象です。また、喫煙者でがんや心臓病などの病気にかかってしまった場合、それはたばこの害に対して弱い体質であることが示されているといえ、吸い続けていると病気の進行、再発はさらにリスクが高くなります。
日本の喫煙率は年々低下してきており、2016年の統計では男性の喫煙率は33.7%で、高いほうから60位、女性が喫煙率10.6%で58位となっています。まだまだ世界的にみると低いとはいえません。たばこをやめることの困難さは、多く語られています。たばこの害は非喫煙者とくらべると1日5本と1日20本の喫煙者ではあまり変わりませんし、たばこを減らすことは意味が乏しいのです。たばこの有害さを理解し、それに対して強い意志をもっていれば、禁煙はそれほどむずかしいものではありませんし、ニコチン依存症を対象とした治療をおこなう「禁煙外来」も多く開設されています。思いきってやめましょう。
若いころに身についた習慣はなかなか抜けません。若いころからたばこをすわない習慣を身につけておくに越したことはありません。
■健康的な酒の飲みかた
多くの一般医学書で、百害の王様のようにいわれているたばこにくらべて、酒については人々はかなり寛容です。むかしから「酒は百薬の長」といわれ、適量の酒は胃液の分泌をうながして食欲を高め、精神的緊張をとり、新陳代謝や循環器系の機能を一時的に促進し、疲労回復に役立つことが知られています。また飲酒によって抑制がとれ、話がはずむことによって、非飲酒時にない精神の賦活(ふかつ)化、発想の転換、友人関係の醸成などが進むことがあるのもたしかです。しかし、これは適量の酒の話であって、度を過ぎればこれら酒の長所はすべて一転して害となります。
従来わが国では、欧米にくらべてアルコール依存症が少ないといわれてきました。これには、生活のなかに占めるアルコールの位置づけの違いや、日本人はアルコールによって顔が赤くなる人が多いなど、人種的な違いもありました。しかし近年、社会生活の変化、精神・心理状況の変化、さらには酒類の自動販売機の普及で、いつでも人目をはばからずに酒を飲めるようになり、アルコール依存症がふえつつあることは、ニュースなどでも報道されているとおりです。近年、26年間195カ所に及ぶ国際的な調査研究の結果、アルコール摂取と疾病罹患や死亡率には明確な関係があり、リスクが最小となるのはアルコール摂取がゼロの場合という、従来いわれていた「少量ならば健康によい」という説も否定される研究結果も発表され、注意が必要です。
アルコールの害には急性と慢性の2つがあります。イッキ飲みなどと称して、むりやりに酒を飲まされた結果起こるのが急性アルコール中毒。こちらも注意をすべきですが、問題は慢性のアルコール障害です。
慢性障害のなかには、胃炎、胃・十二指腸潰瘍、肝硬変、膵(すい)炎、心筋症、中性脂肪や尿酸値の上昇などがありますし、さらに重要なものとしてアルコール依存症(アルコールなしでは不安、不眠、ふるえ、幻覚などの精神・神経系の異常が出て、正常な生活がいとなめなくなる状態)があります。
では、適量の酒とは? 定義はいろいろあるでしょうが、酔っていることが人にわかってしまう酒の量は、適量を超えています。その量は、人によってまちまちですが、純アルコールに換算して1日あたり20g程度まで(女性はさらに少なく)が適量とされています。大ざっぱなめやすとして、日本酒なら1合以内と考えられます。じょうずに酒を飲むためには、以下の点に注意してください。
1.晩酌または寝酒がないと物足りなくて、しかもしだいにその量がふえる傾向にあるときはアルコール依存症の前ぶれです。
2.二日酔いのあとのむかえ酒は厳禁です。必ず2~3日休酒をしましょう。
3.飲みたくもない酒を他人のペースにあわせて飲むのはやめましょう。
4.酔うために飲む酒は、まわりの人に迷惑をかけることになるのでやめましょう。
5.定期的な健康診断を受けながら、自分の適量を知りましょう。
6.晩酌などの定期的な飲酒習慣はできれば避けるようにしましょう。
(執筆・監修:自治医科大学附属さいたま医療センター 総合医学第1講座 主任教授/循環器内科 教授 藤田 英雄)
喫煙の有害性は、いまさらいうまでもないでしょう。疫学的にもその有害性は証明されています。
1日40本のたばこをすう人の死亡率は、すわない人の2.2倍です。紙巻きの煙には、肺がん、慢性気管支炎、肺気腫の誘因となる物質が含まれています。またニコチンには、血液を濃くし、血液の流れをわるくし、血栓をつくることで動脈硬化に導く物質が含まれています。実際喫煙者では心筋梗塞の発症が多いのも事実です。また、たばこをすう妊婦の未熟児出生率は、すわない人の2倍です。
これだけ有害で、1つも有益な作用がないたばこがやめられない理由はなんでしょうか。それはニコチン依存症という一種の病気にかかっている状態と考えられています。たしかに、喫煙者にとっては多忙な現代の日常生活のなかでは、たばこは一服の清涼剤かもしれません。しかし、それをみとめたうえでも、これだけの喫煙の害を理解し、さらにたばこをすわない人にとって煙がきわめて不愉快であることを考えれば、1日も早く禁煙する必要があるでしょう。また、最近ふえている加熱式たばこもその煙にはニコチンや発がん性物質などの有害な物質が含まれていて、たばこと比較して害は少ないとは証明されてはいないことに注意が必要です。医学的には加熱式たばこも禁煙の対象です。また、喫煙者でがんや心臓病などの病気にかかってしまった場合、それはたばこの害に対して弱い体質であることが示されているといえ、吸い続けていると病気の進行、再発はさらにリスクが高くなります。
日本の喫煙率は年々低下してきており、2016年の統計では男性の喫煙率は33.7%で、高いほうから60位、女性が喫煙率10.6%で58位となっています。まだまだ世界的にみると低いとはいえません。たばこをやめることの困難さは、多く語られています。たばこの害は非喫煙者とくらべると1日5本と1日20本の喫煙者ではあまり変わりませんし、たばこを減らすことは意味が乏しいのです。たばこの有害さを理解し、それに対して強い意志をもっていれば、禁煙はそれほどむずかしいものではありませんし、ニコチン依存症を対象とした治療をおこなう「禁煙外来」も多く開設されています。思いきってやめましょう。
若いころに身についた習慣はなかなか抜けません。若いころからたばこをすわない習慣を身につけておくに越したことはありません。
■健康的な酒の飲みかた
多くの一般医学書で、百害の王様のようにいわれているたばこにくらべて、酒については人々はかなり寛容です。むかしから「酒は百薬の長」といわれ、適量の酒は胃液の分泌をうながして食欲を高め、精神的緊張をとり、新陳代謝や循環器系の機能を一時的に促進し、疲労回復に役立つことが知られています。また飲酒によって抑制がとれ、話がはずむことによって、非飲酒時にない精神の賦活(ふかつ)化、発想の転換、友人関係の醸成などが進むことがあるのもたしかです。しかし、これは適量の酒の話であって、度を過ぎればこれら酒の長所はすべて一転して害となります。
従来わが国では、欧米にくらべてアルコール依存症が少ないといわれてきました。これには、生活のなかに占めるアルコールの位置づけの違いや、日本人はアルコールによって顔が赤くなる人が多いなど、人種的な違いもありました。しかし近年、社会生活の変化、精神・心理状況の変化、さらには酒類の自動販売機の普及で、いつでも人目をはばからずに酒を飲めるようになり、アルコール依存症がふえつつあることは、ニュースなどでも報道されているとおりです。近年、26年間195カ所に及ぶ国際的な調査研究の結果、アルコール摂取と疾病罹患や死亡率には明確な関係があり、リスクが最小となるのはアルコール摂取がゼロの場合という、従来いわれていた「少量ならば健康によい」という説も否定される研究結果も発表され、注意が必要です。
アルコールの害には急性と慢性の2つがあります。イッキ飲みなどと称して、むりやりに酒を飲まされた結果起こるのが急性アルコール中毒。こちらも注意をすべきですが、問題は慢性のアルコール障害です。
慢性障害のなかには、胃炎、胃・十二指腸潰瘍、肝硬変、膵(すい)炎、心筋症、中性脂肪や尿酸値の上昇などがありますし、さらに重要なものとしてアルコール依存症(アルコールなしでは不安、不眠、ふるえ、幻覚などの精神・神経系の異常が出て、正常な生活がいとなめなくなる状態)があります。
では、適量の酒とは? 定義はいろいろあるでしょうが、酔っていることが人にわかってしまう酒の量は、適量を超えています。その量は、人によってまちまちですが、純アルコールに換算して1日あたり20g程度まで(女性はさらに少なく)が適量とされています。大ざっぱなめやすとして、日本酒なら1合以内と考えられます。じょうずに酒を飲むためには、以下の点に注意してください。
1.晩酌または寝酒がないと物足りなくて、しかもしだいにその量がふえる傾向にあるときはアルコール依存症の前ぶれです。
2.二日酔いのあとのむかえ酒は厳禁です。必ず2~3日休酒をしましょう。
3.飲みたくもない酒を他人のペースにあわせて飲むのはやめましょう。
4.酔うために飲む酒は、まわりの人に迷惑をかけることになるのでやめましょう。
5.定期的な健康診断を受けながら、自分の適量を知りましょう。
6.晩酌などの定期的な飲酒習慣はできれば避けるようにしましょう。
(執筆・監修:自治医科大学附属さいたま医療センター 総合医学第1講座 主任教授/循環器内科 教授 藤田 英雄)