高齢期の適正な栄養量と食事の基本 家庭の医学

 加齢とともに基礎代謝量(食事摂取基準の活用のしかた)が少なくなります。したがって、必要とするエネルギー量は少なくてすみますが、基礎代謝は、筋肉量に比例しますので、年をとったから少なく食べるべきと一概にはいえません。
 最近は、フレイル・サルコペニアという言葉がよく聞かれるようになりました。サルコペニアは「疾患」として位置づけられ「筋肉量の減少」を診断基準としています。
 フレイルは疾患としてではなく「加齢により心身が老い衰えた状態」のことです。しかし、フレイルは早期に介入して対策(栄養や運動や社会参加など)をおこなえば、もとの健康な状態に戻る可能性があります。
 フレイルの基準にはさまざまなものがありますがよく用いられているのが「日本版CHS基準(J-CHS基準)」です。3つ以上当てはまればフレイル、1つまたは2つの場合にはフレイル前段階とされています。

●2020年改定 日本版CHS基準(J-CHS基準)
項目評価基準
1.体重減少6カ月で、2kg以上の(意図しない)体重減少
2.筋力低下握力:男性<28kg、女性<18kg
3.疲労感(ここ2週間)わけもなく疲れたような感じがする
4.歩行速度通常歩行速度<1.0m/秒
5.身体活動①軽い運動・体操をしていますか?
②定期的な運動・スポーツをしていますか?
上記2つのいずれも「週に1回もしていない」と回答
(Satake S, et al. Geriatr Gerontol Int. 2020; 20(10): 992-993.)
(日本語版:国立長寿医療研究センター. 佐竹昭介. 健康長寿教室テキスト第2版. P.2)

国立長寿医療研究センター老年学・社会科学研究センター フレイル研究部ホームページをもとに作成


 体重、体重の変動は身体の「栄養状態」や「浮腫・脱水」を知る指標として、重要です。体重の評価には「BMI」が用いられています。BMIの求めかたは肥満の項(肥満の食事療法)を参照してください。日本人の食事摂取基準では目標とするBMIを下表のように示しています。低栄養はBMIが目標とする体重より低い方、短期間に意図しない体重減少があった方にみられる場合が多くなっています。

●目標とするBMIの範囲(18歳以上)
年齢(歳)目標とするBMI(kg/m2
18~4918.5~24.9
50~6420.0~24.9
65~7421.5~24.9
75以上21.5~24.9
1 男女共通。
(「日本人の食事摂取基準(2020年版)」策定検討会報告書〈厚生労働省〉より作成)


 加齢とともに身長が低くなり、体重も減ることが多いので、これに伴い適正量が減る栄養素もありますが、基本的には高齢期に減らすべき栄養素はないとされています(高齢者の適正な栄養摂取量についてのエビデンスが少ないため、現時点では、このような表現となります)。むしろ、低栄養は、寝たきりの大きな要因となります。肉や魚を食べずに、野菜中心の食事にする必要はありません。しっかり食べることが大切です。
 一般的には、高齢になるとからだ全体がかたくなり、運動量も減少し、動きもゆっくりになりますが、加齢によるからだの変化は個人差が大きく、高齢者の多くはなんらかの慢性疾患を抱えています。高齢者の栄養について考えるときは、抱えている疾患にも配慮が必要です。
 適正な栄養量を確保するための食事の基本は、エネルギー量は適正に、バランスのよい栄養(炭水化物50~60%、たんぱく質20%、脂質25%、ビタミン・ミネラル)、これを食事に直せば、穀類+魚肉類+野菜・芋+乳製品+果物を組み合わせた、食材料が多彩なメニュー(少量多品目)、減塩、水分は少しずつ頻回にとることが基本となります。

(執筆・監修:聖徳大学 人間栄養学部人間栄養学科 兼任講師 宮本 佳代子)

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