肥満と生活習慣病
肥満はあらゆる生活習慣病の危険因子(リスクファクター)です。ここでは、はじめに肥満とはなにか述べておきます。
肥満とは、脂肪組織に脂肪が過剰に蓄積した状態のことをいいます(下表「肥満と肥満症の定義」参照)。しかし、体脂肪量を正確に測定するのは簡単ではありません。スポーツ選手のように特別な筋肉トレーニングをしていなければ、脂肪量と体重は相関しますので、実用的な指標として体重が使われています。肥満の判定にはBMI(Body Mass Index)という指数が用いられています。BMIは次の計算式で求めることができます。
日本肥満学会では、この指数を用いて肥満度の分類をしています。25以上を肥満として、18.5以上25未満をふつう体重とし、BMI:22を標準体重(理想体重)としています。この22という指数は疫学的な調査から、もっとも病気が起こりにくい、身長に対する体重の割合です。自分の標準体重を求めるには、前記の計算式の逆算をすればよいことになります。
ご自分の体重が「ふつう体重」の範囲であれば、それぞれの体質にあわせた体重管理をすればよいでしょう。近年は、家庭で体脂肪量を簡便に測定することができる体重計が売られていますが、それらの多くは、からだの水分量を測定し、水分量から体脂肪量を求める計算式で、体脂肪率(体重に占める体脂肪の割合)を求めたもので、真の体脂肪率とは異なります。
家庭用の体重計で、体脂肪率が測定できる体重計をもっている人で、体重が減ったのに体脂肪率がふえてしまったとか、反対に、体重がふえたのに体脂肪率が減ったという経験をもつ人がいるかと思いますが、これは、からだの水分量の影響を受けているためです。しかし、毎日、測定していれば、大きな変動になっていないことがわかりますので、大きな問題とはなりません。
日本肥満学会では肥満の定義は、「BMI」でおこなっており、適正な体脂肪率についての具体的な数値は、示しておりません。体脂肪率が測定できる体重計の説明文書を調べてみると、成人男性では20%以上を、成人女性では30%以上を肥満の目安と判定しています。体脂肪が測定できる体重計は、あくまで推定値なので、「体脂肪が多めかな?」と考える目安とされるといいでしょう。
また、同じ体脂肪率でも、脂肪のつきかたで生活習慣病の発症の危険性(リスク)が違うとされています。内臓に脂肪がつく、「内臓脂肪型肥満」と、皮下に脂肪がつく「皮下脂肪型肥満」とがあり、前者のほうが生活習慣病の発症のリスクが高いといわれています。
からだのどこに脂肪がついているかは、正確にはCT(コンピュータ断層撮影)検査で調べますが、これも実用的ではありませんので、ウエスト周囲長が使われています。内臓脂肪型肥満の判定基準はウエスト周囲長が男性では85cm以上、女性では90cm以上です。また、ふとりかたの表現として、「洋梨型肥満」「リンゴ型肥満」といわれる肥満の前者は、「皮下脂肪型肥満(または臀〈でん〉部型肥満)」で、後者は、「内臓脂肪型肥満(または腹部型肥満)」を指しています。
「やせの大食い」「水を飲んでもふとる」「ふとる体質」など、いろいろいわれますが、たしかに、エネルギーの利用効率の個人差はあるといわれていますので、厳密に考えれば、ダイエットの効果に個人差はあります。しかし、一人ひとりについて考えた場合には、消費エネルギーに対し、摂取エネルギーがプラスになればふとり、マイナスになればやせます。また、体重は、そのときどきの体内の水分量によって、多少は違います。食事をすれば見かけの体重はふえます。しかし、それは肥満の本来の定義である「体脂肪量」の増減ではありません。体重はいつも同じ条件で測定し、1kg程度の上下であれば、「変化なし」と考えてよいでしょう。
肥満が、発症リスクを高める健康障害を表にまとめました。なお、日本肥満学会では、「肥満」と「肥満症」として分けて考えています。
肥満症は、治療の対象となる疾患です。肥満の食事療法の理論は、実に明快で「食べた量(エネルギー)-使ったエネルギー=マイナスの数値」にすればいいのです。しかし、多くの人が苦戦しています。予防するのが賢明です。
実践方法の詳細は、糖尿病・肥満の項(糖尿病の食事療法)を参照してください。
■高齢者の肥満
日本老年医学会では「高齢者肥満症診療ガイドライン2018」で、高齢者の肥満の診断は若い人と同じ基準で診断するが、BMIが体脂肪量を正確に反映していないので注意を必要としています。サルコペニア肥満は、ADL(日常生活動作)の低下、転倒、骨折、死亡をきたしやすいので、注意を要するとし治療の介入を必要としていますが、まずはエネルギー制限と十分なたんぱく質摂取をおこない、同時にレジスタンス運動をおこなって筋肉量の減量をきたさないよう注意をうながしています。運動は、転倒などのリスクを伴うので、専門家の指導のもとに環境(場所、服装、見守りなど)を整えて臨むことも大切です。
肥満とは、脂肪組織に脂肪が過剰に蓄積した状態のことをいいます(下表「肥満と肥満症の定義」参照)。しかし、体脂肪量を正確に測定するのは簡単ではありません。スポーツ選手のように特別な筋肉トレーニングをしていなければ、脂肪量と体重は相関しますので、実用的な指標として体重が使われています。肥満の判定にはBMI(Body Mass Index)という指数が用いられています。BMIは次の計算式で求めることができます。
BMI = 体重(kg)÷ 身長(m)÷ 身長(m) |
日本肥満学会では、この指数を用いて肥満度の分類をしています。25以上を肥満として、18.5以上25未満をふつう体重とし、BMI:22を標準体重(理想体重)としています。この22という指数は疫学的な調査から、もっとも病気が起こりにくい、身長に対する体重の割合です。自分の標準体重を求めるには、前記の計算式の逆算をすればよいことになります。
BMI(kg/m2) | 判定 | WHO基準 | |
---|---|---|---|
BMI<18.5 | 低体重 | Underweight | |
18.5≦BMI<25 | ふつう体重 | Normal range | |
25≦BMI<30 | 肥満(1度) | Pre-obese | |
30≦BMI<35 | 肥満(2度) | Obese classⅠ | |
35≦BMI<40 | 高度肥満 | 肥満(3度) | Obese classⅡ |
40≦BMI | 肥満(4度) | Obese classⅢ | |
(日本肥満学会編:肥満症診療ガイドライン2022、ライフサイエンス出版) |
標準体重(kg)= 身長(m)× 身長(m)×22 |
ご自分の体重が「ふつう体重」の範囲であれば、それぞれの体質にあわせた体重管理をすればよいでしょう。近年は、家庭で体脂肪量を簡便に測定することができる体重計が売られていますが、それらの多くは、からだの水分量を測定し、水分量から体脂肪量を求める計算式で、体脂肪率(体重に占める体脂肪の割合)を求めたもので、真の体脂肪率とは異なります。
家庭用の体重計で、体脂肪率が測定できる体重計をもっている人で、体重が減ったのに体脂肪率がふえてしまったとか、反対に、体重がふえたのに体脂肪率が減ったという経験をもつ人がいるかと思いますが、これは、からだの水分量の影響を受けているためです。しかし、毎日、測定していれば、大きな変動になっていないことがわかりますので、大きな問題とはなりません。
日本肥満学会では肥満の定義は、「BMI」でおこなっており、適正な体脂肪率についての具体的な数値は、示しておりません。体脂肪率が測定できる体重計の説明文書を調べてみると、成人男性では20%以上を、成人女性では30%以上を肥満の目安と判定しています。体脂肪が測定できる体重計は、あくまで推定値なので、「体脂肪が多めかな?」と考える目安とされるといいでしょう。
また、同じ体脂肪率でも、脂肪のつきかたで生活習慣病の発症の危険性(リスク)が違うとされています。内臓に脂肪がつく、「内臓脂肪型肥満」と、皮下に脂肪がつく「皮下脂肪型肥満」とがあり、前者のほうが生活習慣病の発症のリスクが高いといわれています。
からだのどこに脂肪がついているかは、正確にはCT(コンピュータ断層撮影)検査で調べますが、これも実用的ではありませんので、ウエスト周囲長が使われています。内臓脂肪型肥満の判定基準はウエスト周囲長が男性では85cm以上、女性では90cm以上です。また、ふとりかたの表現として、「洋梨型肥満」「リンゴ型肥満」といわれる肥満の前者は、「皮下脂肪型肥満(または臀〈でん〉部型肥満)」で、後者は、「内臓脂肪型肥満(または腹部型肥満)」を指しています。
「やせの大食い」「水を飲んでもふとる」「ふとる体質」など、いろいろいわれますが、たしかに、エネルギーの利用効率の個人差はあるといわれていますので、厳密に考えれば、ダイエットの効果に個人差はあります。しかし、一人ひとりについて考えた場合には、消費エネルギーに対し、摂取エネルギーがプラスになればふとり、マイナスになればやせます。また、体重は、そのときどきの体内の水分量によって、多少は違います。食事をすれば見かけの体重はふえます。しかし、それは肥満の本来の定義である「体脂肪量」の増減ではありません。体重はいつも同じ条件で測定し、1kg程度の上下であれば、「変化なし」と考えてよいでしょう。
肥満が、発症リスクを高める健康障害を表にまとめました。なお、日本肥満学会では、「肥満」と「肥満症」として分けて考えています。
1.肥満症の診断に必要な健康障害 1)耐糖能障害(2型糖尿病・耐糖能異常など) 2)脂質異常症 3)高血圧 4)高尿酸血症・痛風 5)冠動脈疾患 6)脳梗塞・一過性脳虚血発作 7)非アルコール性脂肪性肝疾患 8)月経異常・女性不妊 9)閉塞性睡眠時無呼吸症候群・肥満低換気症候群 10)運動器疾患(変形性関節症:膝関節・股関節・手指関節、変形性脊椎症) 11)肥満関連腎臓病 |
2.肥満症の診断には含めないが、肥満に関連する健康障害 1)悪性疾患:大腸がん・食道がん(腺がん)・子宮体がん・膵臓がん・腎臓がん・乳がん・肝臓がん 2)胆石症 3)静脈血栓症・肺塞栓症 4)気管支喘息 5)皮膚疾患:黒色表皮腫や摩擦疹など 6)男性不妊 7)胃食道逆流症 8)精神疾患 |
(日本肥満学会編:肥満症診療ガイドライン2022、ライフサイエンス出版) |
1)閉塞性睡眠時無呼吸症候群、肥満低換気症候群、呼吸不全 2)心不全 3)肥満関連腎臓病 4)静脈血栓 5)運動器疾患 6)皮膚疾患 |
(日本肥満学会編:肥満症診療ガイドライン2022、ライフサイエンス出版) |
《肥満の定義》 脂肪組織に脂肪が過剰に蓄積した状態で、体格指数(BMI=体重[kg] /身長[m]2)≧25のもの |
《肥満症の定義》 肥満に起因ないし関連する健康障害を合併するか、その合併が予測され、医学的に減量を必要とする疾患 |
(日本肥満学会編:肥満症診療ガイドライン2022、ライフサイエンス出版) |
肥満症は、治療の対象となる疾患です。肥満の食事療法の理論は、実に明快で「食べた量(エネルギー)-使ったエネルギー=マイナスの数値」にすればいいのです。しかし、多くの人が苦戦しています。予防するのが賢明です。
実践方法の詳細は、糖尿病・肥満の項(糖尿病の食事療法)を参照してください。
■高齢者の肥満
日本老年医学会では「高齢者肥満症診療ガイドライン2018」で、高齢者の肥満の診断は若い人と同じ基準で診断するが、BMIが体脂肪量を正確に反映していないので注意を必要としています。サルコペニア肥満は、ADL(日常生活動作)の低下、転倒、骨折、死亡をきたしやすいので、注意を要するとし治療の介入を必要としていますが、まずはエネルギー制限と十分なたんぱく質摂取をおこない、同時にレジスタンス運動をおこなって筋肉量の減量をきたさないよう注意をうながしています。運動は、転倒などのリスクを伴うので、専門家の指導のもとに環境(場所、服装、見守りなど)を整えて臨むことも大切です。
(執筆・監修:聖徳大学 人間栄養学部人間栄養学科 兼任講師 宮本 佳代子)