血栓塞栓症〔けっせんそくせんしょう〕

 血管の中で血液成分が固まって血管をつまらせるものを血栓症といい、その血栓がはがれて血管内を流れ、別の臓器の血管をつまらせる場合を血栓塞栓症といいます。動脈血栓と静脈血栓の2つがありますが、一般的に産科で起こりやすいものは静脈血栓塞栓症です。多くは下肢の静脈に血栓症が起こり(深部静脈血栓症)、血栓でつまった側の下肢に痛みと腫脹(しゅちょう)が生じますが、この血栓がはがれて流れると、心臓を通って肺動脈に達し、肺血栓塞栓症(いわゆるエコノミークラス症候群)を起こします。すみやかに適切な処置をおこなわないと、肺血栓塞栓症は死につながります。
 妊娠高血圧症候群、40歳以上の高齢妊娠、多胎妊娠、切迫早産や前置胎盤(ぜんちたいばん)などで安静期間の長い妊婦、からだを動かすことが苦手な肥満の妊婦などに多いといわれています。
 さらに帝王切開の手術後に起こることも多く、この場合は手術に伴う血管の挫滅(ざめつ)や手術後に安静を余儀なくされるためと考えられています。この病気は予防がとても大切です。産後は早期離床といって、早めにからだを動かすよう指導され、帝王切開では下肢静脈の流れをよくするように、手術中から術後歩行するまで下肢にマッサージポンプを装着します。
 生まれつき(先天的)あるいは後天的に血液凝固などにかかわる因子の異常をもつ場合、血栓ができやすい体質と考えられます。その場合は、産後を中心に予防的に抗凝固薬(血液がかたまりにくくなる薬)を使用することがあります。
 もともと妊婦は胎盤からつくられる大量の女性ホルモン(エストロゲン)の影響で、止血に必要な血液凝固因子の活性が高くなっています。どのような妊産婦も、脱水や不動の姿勢などを回避し、分娩後は早期離床することが大切です。

(執筆・監修:恩賜財団 母子愛育会総合母子保健センター 愛育病院 名誉院長 安達 知子
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