術後出血は一般外科手術においてしばしばみられる。国際多施設ランダム化比較試験POISE-3※1では、非心臓手術において予防的トラネキサム酸(TXA)投与がプラセボと比較して大出血の予防効果を有し、血管イベントリスクを増加させないことが示されている(関連記事「手術時のトラネキサム酸で出血リスクを低減」)。カナダ・Population Health Research InstituteのLily J. Park氏らは、同試験のサブグループ解析において一般外科手術に限定して予防的TXAの安全性および有効性を検証。TXAが心血管リスクを増加させることなく術後出血リスクを有意に低減させたことをJAMA Surg(2025年1月15日オンライン版)に報告した。
※1 Perioperative Ischemic Evaluation-3
一般外科手術3,260例で出血予防効果検討
POISE-3の対象は、非心臓手術※2を受ける45歳以上の患者で、心血管リスクが高く、術後1泊以上の入院を要すると予想される患者。2018年6月~21年7月に9,535例を予防的TXA群(手術開始時と終了時にTXA1g静脈内ボーラス投与)とプラセボ群にランダムに割り付けた。今回の報告は、このうち一般外科手術を受けた3,260例(TXA群1,635例、プラセボ群1,625例)に限定した解析結果。一般外科手術は、肝胆膵、大腸、上部消化管、頭頸部の手術、その他の一般大手術、その他の一般低リスク手術と定義した。
有効性の主要評価項目は、複合出血アウトカム(致死的な出血、大出血、重大な臓器出血)とした。安全性の主要評価項目は、ランダム化後30日の複合血管アウトカム(術後の心筋障害、非出血性脳卒中、末梢動脈塞栓症、症候性の近位部静脈血栓塞栓症)とした。解析には、Cox比例ハザードモデルを用い、一般手術とそれ以外の手術、一般手術のサブタイプ間の交互作用検定も実施した。
出血リスク26%低下、安全性に有意差なし
一般外科手術を受けた3,260例の平均年齢は68.6歳(標準偏差9.6歳)で、男性割合は53.4%だった。主要なサブタイプは、大腸28.8%、頭頸部13.3%、肝胆膵10.2%、上部消化管8.4%だった。
有効性の主要評価項目に到達したのは、TXA群8.0%とプラセボ群10.5%で、TXA群で有意に少なかった〔ハザード比(HR)0.74、95%CI 0.59~0.93、P=0.01〕。一方、安全性の主要評価項目に到達したのは、それぞれ11.9%と12.5%で、両群間に差はなかった(同0.95、0.78~1.16、P=0.63)。手術の種類(一般外科手術 vs. それ以外)による有効性(交互作用のP=0.81)および安全性(交互作用のP=0.37)への有意な交互作用は認められなかった。
サブタイプ別で、TXA群においてプラセボ群と比べ複合出血評価項目が減少したのは、肝胆膵手術(HR 0.55、95%CI 0.34~0.91、332例)および大腸手術(同0.67、0.45~0.98、940例)だった。手術サブタイプ間での有意な交互作用は認められなかった(交互作用のP=0.68)。
これらの結果を踏まえ、Park氏らは「一般外科手術を受けた患者においてTXAは心血管リスクを増加させることなく、術後出血のリスクを有意に低減させることが示された」と結論している。
※2 POISE-3試験では、外科手術の種類を以下の9種に分類した:一般、整形、血管、泌尿器、脊髄、婦人科、胸部、形成(美容整形)、低リスク
(医学ライター・小路浩史)