フランス・国立医薬品・保健製品安全庁(ANSM)のNoémie Roland氏らは、特定の黄体ホルモン製剤の使用と頭蓋内髄膜腫リスクとの関連を検討する全国規模の症例対照研究を実施。その結果、一部の日本では未承認の薬剤および保険適用外の剤形で、使用による頭蓋内髄膜腫リスク上昇が認められた。一方、プロゲステロン、ジドロゲステロン、レボノルゲストレル放出子宮内システム(LNG-IUS)といった国内で広く使用されている製剤について関連は認められなかった。詳細は、BMJ2024; 384: e078078)に掲載されている(関連記事「子宮腺筋症が脳梗塞の新たなリスクに」)。

国のデータベースから10万余人のデータを分析

 髄膜腫は良性腫瘍だが、周囲の脳組織を圧迫するため外科的な切除・減圧を要する場合もある。最近、cyproterone acetate(国内では販売中止)、nomegestrol acetate(同未承認)、クロルマジノン酢酸エステルの3種の黄体ホルモン製剤ついて、1年以上の高用量投与と髄膜腫との関連が報告されたが、その他の製剤について網羅的に検討した研究はなかった。今回の研究では、プロゲステロン、ヒドロキシプロゲステロン、ジドロゲステロン、medrogestone、メドロキシプロゲステロン酢酸エステル(注射剤)、promegestone、ジエノゲスト、LNG-IUSについて異なる用量や投与経路を踏まえて検討した※1、2

 フランス在住で2009~18年に髄膜腫の頭蓋内手術を受けた女性1万8,061例(平均年齢57.6±12.8歳)を症例群とし、年齢と居住地により1:5でマッチングした9万305例を対照群とした。国の保健データシステム(SNDS)から黄体ホルモン製剤の調製(薬剤交付)および償還データを抽出して、使用状況により①検討対象の製剤のいずれかを使用、②既知のリスクを有する3製剤のいずれかを使用(陽性対照)、③前記①②のいずれも非使用―の3群に分類し、さらに銅付加IUDの使用者を陰性対照とした。LNG-IUSについては、13.5mgの場合3年に1回、同52mgの場合5年に1回を「使用」と定義した。

 条件付きロジスティック回帰分析により、各製剤と頭蓋内髄膜腫の関連についてオッズ比(OR)を算出した。

LNG-IUSは安全、ジエノゲストは使用例少なく結論持ち越し

 medrogestone(OR 3.49、95%CI 2.38~5.10)、メドロキシプロゲステロン酢酸エステル(同5.55、2.27~13.56)、promegestone(同2.39、1.85~3.09)の3製剤の使用で、髄膜腫リスクとの有意な関連が認められた。さらに、1年超の長期使用におけるORはそれぞれ4.08(95%CI 2.72~6.10)、5.62(同2.19~14.42)、2.74(同2.04~3.67)だった。

 一方、プロゲステロン、ジドロゲステロン、LNG-IUSの使用と髄膜炎リスクに関連はなかった。ジエノゲストとヒドロキシプロゲステロンに関しては、使用者が少なく結論は得られなかった

 陽性対照とした3製剤では、いずれも髄膜腫リスクとの強い関連が示された。

 これらの結果に基づき、Roland氏らは「medrogestone、メドロキシプロゲステロン酢酸エステル、promegestoneの長期使用は、頭蓋内髄膜腫リスクを上昇させることが分かった」と結論づけている。

普及目覚ましいLNG-IUSの安全性が示されたことは重要

 メドロキシプロゲステロン酢酸エステルの注射製剤(12週間に1回筋肉注射するデポ製剤)は、フランスではそれほど普及しておらず、日本では保険収載されていないものの、Roland氏らによると、米国とアジア、アフリカを中心に100カ国超、推定7,400万人が避妊目的で使用している。その使用目的に照らせば、若齢者の長期使用が多いことが想定され、今回検討されていない同成分の低用量経口避妊薬も含め、さらに大規模な集団での検討が必要だという。

 一方、LNG-IUSは120カ国で避妊目的、115カ国で過多月経に対する承認を取得しており(Family Med Prim Care 2022; 11: 5031-5037)、日本でも52mg製品(商品名ミレーナ)が過多月経および月経困難症に対して保険適用があり、同氏らは「その安全性が示されたことは重要である」と評価。さらに、「黄体ホルモン製剤は、その由来物質(プロゲステロン、テストステロンなど)によりさまざまなサブタイプがあり、化学構造や薬理学的特性が異なるため、今回の研究のように個々の製剤についての検討は非常に重要である」と付言している。

※1 用量・投与経路は、プロゲステロン(経口錠・経腟製剤100、200mg、皮下インプラント25mg/1本)、ジドロゲステロン(単剤10mg錠、エストロゲン併用5、10mg錠)、ヒドロキシプロゲステロン(500mg筋注)、medrogestone(5mg錠)、メドロキシプロゲステロン酢酸エステル(150mg注)、promegestone(0.125、0.25、0.5mg錠)、ジエノゲスト(エストロゲン併用2mg錠)、LNG-IUS(52mg、13.5mg)

※2 著者らによると、promegestoneはフランスのみ、medrogestoneはフランスとドイツのみで使用

(小路浩史)