日本人の睡眠は、質・量ともに十分でないとの報告があり、不眠症は生活習慣病のリスクを高めるため対策が急務となっている。睡眠は身体、心理、環境の3因子に広く関連すると考えられるが、これまでの国内における研究は単一または少数の因子との関連を検討した報告が大半である。山形大学公衆衛生学衛生学講座/山形県立米沢栄養大学健康栄養学科講師の鈴木美穂氏らは、山形県コホート研究のデータを用いて日本人における不眠症の関連因子を検討。その結果、男女・年齢で異なる不眠症の独立した関連因子を特定したとHeliyon(2024; 10: e28228)に報告した。(関連記事「夜更かし習慣」を定量評価する尺度を作成」)
地域住民約8,000人のデータを解析
山形県コホート研究は、山形大学医学部の主導により同県の7市(山形市、酒田市、上山市、寒河江市、東根市、天童市、米沢市)の地域住民を対象に行っている前向きコホート研究。2009~15年のベースライン調査に参加した2万969人のうち、死亡・転居例を除く1万7,527人に2021年12月~22年3月に健康と生活に関する質問票を郵送し、1万2,216人から回答を得た。今回は、睡眠状態および背景因子に関するデータが欠落していた4,343人を除外し、7,873人(男性3,304人、女性4,569人、平均年齢71.7歳)を解析対象とした。
質問票で収集した①身体的因子(年齢、性、BMI、疼痛・不快感、夜間排尿回数)、②心理的因子(不安、幸福感)、③環境的因子〔1日の歩行時間、入浴から就寝までの時間、就寝時の寝室の照明、スクリーンタイム(スマートフォン、パソコン、タブレット機器の使用時間)、現在の収入による生活状況〕-の3因子について、多変量ロジスティック回帰分析でオッズ比(OR)を算出し、不眠症の関連因子を探索した。不眠症は、アテネ不眠尺度(0~24点)で6点以上と定義した。
不眠症の有病率は23.4%、BMI高値と歩行時間の長さは保護因子
検討の結果、不眠症の有病率は23.4%(男性21.9%、女性24.5%)だった。非不眠症群と比べ、不眠症群では女性、疼痛・不快感、不安、夜間頻尿の割合が多い、入浴から就寝までの時間が長い、幸福感が低い、1日の歩行時間が短いなどの特徴が見られた。
多変量解析の結果、不眠症に関連する因子として夜間排尿3回以上(vs. 0回:OR 4.71、95%CI 3.73~5.94)、不安あり(vs. なし:同3.21、2.84~3.62)、幸福感の欠如(vs. あり:同2.03、1.74~2.36)、疼痛・不快感あり(vs. なし:同1.90、1.66~2.16)、現在の収入では生活が極めて困難(vs. 標準的な収入:同1.63、1.30~2.05)、入浴から就寝まで120分以上(vs. 60分未満:同1.62、1.39~1.90)、寝室の照明を点灯(vs. 消灯:同1.36、1.02~1.81)、女性(vs. 男性:同1.32、1.16~1.50)などが抽出された(照明のみP=0.035、その他はP<0.001)。
一方、1日の歩行時間が2時間以上(vs. 30分未満:OR 0.70、95%CI 0.57~0.86、P=0.001)、BMI 25~29.9(vs. 18.5~24.9:同0.84、0.73~0.98、P=0.026)は保護因子であった。年齢、スクリーンタイムは関連因子ではなかった。
男性:歩行時間、女性:BMI、スクリーンタイム、高齢者:入浴から就寝までの時間、歩行時間が関連
次に、男女別にサブグループ解析を行ったところ、男性でのみ不眠症と関連した因子は、1日の歩行時間が2時間以上(vs. 30分未満:OR 0.63、95%Cl 0.45~0.88、P=0.006)、女性でのみ関連したのはBMI 25~29.9(vs. 18.5~24.9:OR 0.79、95%CI 0.64~0.96、P=0.021)、BMI 30以上(同0.51、0.31~0.84、P=0.008)、寝室の照明を点灯(vs. 消灯:同1.81、1.25~2.63、P=0.002)、スクリーンタイムが1~2時間(vs. なし:同1.34、1.05~1.71、P=0.017)だった。
年齢別の解析では65歳以上でのみ関連した因子は、入浴から就寝まで120分以上(vs. 60分未満:OR 1.68、95%CI 1.42~2.00)、同60~119分(同1.42、95%CI 1.21~1.65、全てP<0.001)、1日の歩行時間が1~2時間未満(vs. 30分未満:同0.81、0.68~0.97、P=0.015)、同2時間以上(同0.65、0.51~0.82、P=0.001)だった。65歳未満でのみ関連が認められた因子はなかった。
以上の結果を踏まえ、鈴木氏らは「地域住民を対象としたコホート研究により、不眠症の有病率は男女とも20%を超え、身体、心理、環境の3因子が独立して関連することが明らかとなった。また、関連因子は性や年齢により異なっていたことから、不眠症の改善には個人の状況に応じた対策が必要と考えられる」と結論している。
(服部美咲)