米・University of Louisville HealthのAnkita Gupta氏らは、産婦人科の医師、研修医、学生における各種ハラスメントの発生状況をシステマチックレビューで検討。その結果、産婦人科ではセクシャルハラスメント、職場内差別(性差別)、いじめの発生率が高く、ハラスメント防止策に関する研究が不十分であることが示されたとJAMA Netw Open(2024; 7: e2410706)に発表した。(関連記事「精神科医へのハラスメント被害の実態は?」)
28~71%がセクハラ経験、33~40%は報復を恐れ報告せず
Gupta氏らはPubMed、EMBASE、ClinicalTrials.govに2023年6月13日までに収載された論文を検索。米国とカナダで産婦人科における医師、研修医、学生の間でのハラスメント発生状況を検討した研究10件・5,852例、ハラスメント防止策に関する研究12件・2,906例を抽出しシステマチックレビューを行った。なお、研究間の異質性が極めて高くメタ解析は実施できなかった。
検討の結果、産婦人科医におけるセクハラ(ジェンダーハラスメント、望まない性的注目、性的強要など)の発生率は高く、米国婦人科腹腔鏡学会(AAGL)会員で27.6%、婦人科腫瘍専門医で63.6%、男性産婦人科医で51.0%、女性産婦人科医で70.9%だった。
産婦人科研修医を対象にした研究では、セクハラの発生率は69.1%で、加害者は産婦人科指導医が最も多く(30.1%)、次いで研修医・専攻医(13.1%)、手術室スタッフ(7.7%)の順だった。
自身が受けたセクハラについて他者に報告した割合は、AAGL会員で8.4%、婦人科腫瘍専門医で12.5%、産婦人科研修医で32.6%だった。また、セクハラを報告したものの深刻に受け止められなかったと感じた者が8%、報復への不安から報告しなかった者が33.5~40.2%に上った。
いじめ53%、差別39~67%、臨床実習生の虐待25.1%
婦人科腫瘍専門の女性医師を対象にした研究では、52.8%がいじめ、57.0%が職場内差別(性差別)を経験していた。
別の研究では、職場内差別の発生率は女性(67.2%)と比べて男性(38.5%)で大幅に低かったが、男女とも差別の内容は性差別が多かった(男性72.3%、女性90.1%)。
産婦人科で臨床実習中の学生を対象にした研究では、25.1%が暴言、強要、威圧などの不当な扱い(虐待)を受けていた。
防止策は大半が学生限定で不十分
ハラスメント防止策に関する研究は12件中4件が研修医、7件が学生を対象にしたもので、さまざまな介入がハラスメントの認識および報告の改善につながっていた。例えば、臨床実習時にビデオ視聴およびディスカッションによる虐待防止プログラムを実施した研究では、学生からの虐待の報告件数がプログラム実施前年の14件から実施1年目には9件、2年目には4件に減少した。
しかし、いずれの介入でもセクハラ発生率の有意な低下は認められなかった。
以上の結果から、Gupta氏らは「産婦人科ではハラスメント行動が蔓延していることが示唆された。ハラスメント防止策の研究は不十分で、対象が学生に限定されたもの、セクハラなど各種のハラスメントを個別に検討していないものが多かった」と結論。今後の研究が待たれるとしている。
(太田敦子)