Trichophyton indotineae(T. indotineae)はテルビナフィンが無効で広範な体部白癬を引き起こす新興皮膚糸状菌で、近年、世界中で検出されているが詳細なデータは乏しい。米・New York University Grossman School of MedicineのAvrom S. Caplan氏らは、ニューヨーク市で特定されたT. indotineae感染症の臨床的特徴、in vitroでの抗真菌薬感受性、スクアレンエポキシダーゼ(SQLE)遺伝子配列変異および全ゲノム配列解析による分離株を検討。イトラコナゾールが有効で、バングラデシュ渡航歴との関連が示唆されたとJAMA Dermatol(2024 May 15: e241126)に報告した。
局所抗真菌薬は無効、診断までの期間が長い
2022年5月〜23年5月にニューヨーク市の医療機関6施設で11例から分離したT. indotineaeを特定。患者の内訳は男性6例、女性5例、年齢中央値39歳(範囲10〜65歳)、妊娠中2例、リンパ腫1例。11例中9例がバングラデシュへの渡航歴を有し、1例は渡航歴や既知の感染者との接触はなく、1例は曝露に関するデータが欠落していた。3例は家庭内感染の可能性が非常に高く、1例は可能性があると判断された。
白癬発症から診断までの期間の中央値は10カ月(範囲3〜42カ月)で、主に体幹、四肢、臀部、鼠径部と複数の部位に強い炎症症状を伴う多発性の紅斑を有していた。6例が白癬の診断前に外用ステロイド薬を投与され、2例がバングラデシュで入手したステロイド+抗真菌薬配合外用薬を用いていた。全例が1種類以上の外用抗真菌薬を投与されていたが、単剤による治療は無効だった。
イトラコナゾール経口治療で症状の消失・改善
体部・股部白癬に対する一般的な経口抗真菌薬治療の用量および投与期間ではほとんどの例が奏効しなかった。
テルビナフィン250mg/日による経口抗真菌薬治療を行った7例は無効で、SQLE遺伝子393(L393S)または397(F397L)の変異を伴う分離株を有し、テルビナフィン最小発育阻止濃度(MIC)が上昇していた(範囲0.5〜128μg/mL)。テルビナフィンによる治療を受けなかった3例の分離株のテルビナフィンMIC値は0.0039μg/mL以下だった。
フルコナゾールによる治療を行った4例中2例、グリセオフルビンによる治療を行った5例中2例で改善が見られたが、治療効果と抗真菌薬の最小発育阻止濃度の間に相関は認められなかった。
一方、イトラコナゾール200mg/日で治療した7例中5例で症状の消失または改善が見られた。7例におけるイトラコナゾールMICは0.5μg/mL以下だった。胃腸症状で1例が中止、治癒後に1例で急性蕁麻疹が報告されていた。
2例がバングラデシュでボリコナゾールを投与されたと報告したが、投与量と投与期間は不明だった。
T. indotineae分離株11株についてSQLE変異体遺伝子検査を行ったところ、5株はF397L、3株はL393Sの点変異を持ち、テルビナフィンMIC値はそれぞれ32〜128μg以上、0.5〜1μgと上昇を示した。A448Tの変異を持つ3株におけるテルビナフィンMIC値は0.0039μg/mL以下だった。T. indotineae SQLEのテルビナフィン結合部位をモデル化したところ、L393およびF397はA448とは異なり、テルビナフィンのナフタレン基を収容する疎水性結合部位の一部を形成することが明らかになった。
系統解析の結果、米国における分離株はインドにおける分離株とは異なるクラスターを形成していることが明らかになった。
感染拡大を抑えるには国際協力が必要
以上から、Caplan氏らは「T. indotineae感染症は症状が強く、診断が遅れる傾向があり、白癬に一般的に用いられる抗真菌薬の投与量と投与期間では奏効しないことが示された。現在推奨されている治療法はイトラコナゾール100mgまたは200mgの6〜8週間投与だが、さらに長期間および高用量を要する可能性がある。今回の症例ではイトラコナゾールが有効だったが、治癒を得るためには治療期間の延長を要するケースも見られた。感染はバングラデシュで生じた可能性が高いが、同国におけるT. indotineaeに関するデータは乏しい。T. indotineaeの病態と感染の特徴を捉え、適切な抗真菌薬の使用を促進し、治療アルゴリズムを開発し、耐性株の出現を監視、拡大を抑えるためには、臨床医、公衆衛生専門家、臨床微生物学者らによる強力な国際協力が必要だ」と述べている。
(編集部)