アルツハイマー病(AD)の原因物質であるアミロイドβ(Aβ)を標的とする疾患修飾薬(DMT)への期待が高まる中、英・Queen Mary University of LondonのRuth Dobson氏らは、英国のメモリーサービス(認知症初期集中支援施設)と認知症専門サービス施設から患者の匿名データを入手し、DMTの適格性評価(トリアージ)の対象となる割合を推計。「メモリーサービスの患者の32%、認知症専門サービス施設の患者の14%がDMTの適応候補となりうる」との推計結果をJ Neurol Neurosurg Psychiatry(2024年6月11日オンライン版)に報告した(関連記事:「認知症疾患修飾薬の適応例、どう評価?」、「抗アミロイド療法の選択に有用なマーカー」)。
DMTの実施には適応患者の把握が重要
日本と米国ではDMTとして既にレカネマブが承認されているが、英国でもレカネマブとドナネマブは画期的治療薬指定 (Breakthrough Therapy Designation)を受けており、英国医薬品医療製品規制庁(MHRA)および英国医療技術評価機構(NICE)の審査を経て、今年(2024年)中の正式承認が期待されている。しかし、DMTの提供には早い段階での厳密な診断が不可欠であり、医療サービス提供体制の再構成(reconfiguration)が必要となる。
その実現にはDMTが適応となる患者数の把握が重要であることから、Dobson氏らは北部/東部ロンドンのメモリーサービスクリニック5施設と神経内科医を中心とする認知症専門クリニック5施設のデータを入手し、後ろ向きに解析した。
メモリーサービスの患者絞り込みは難しい
メモリーサービスクリニックの2022年1~6月のデータ(517例)を調べた結果、平均年齢が79.4歳(70歳未満は14%)、男性が41%、白人が58%だった。認知症専門サービス(連続500例)については144例が新規患者、356例はフォローアップ症例だった。男性が53%で、平均年齢は66.2歳とメモリーサービスに比べ、若干若かった。
メモリーサービス施設の患者についてDMTの適格性と関連する因子を検討したところ、認知障害の重症度〔MMSE(Mini-Mental State Examination)、ACE(Addenbrooke's Cognitive Examination)、Rowland Universal Dementia Assessment(RUDAS)などで評価〕と臨床的フレイル(Rockwood frailty scoreで評価)に関し、214例(65%)がDMTの適応対象か否かを照会される(トリアージの対象となる)レベルだった。このうち24例は抗凝固薬を服用していたのでDMT適応とならず、さらにMRI所見から27例が除外され、最終的に163例(32%)がDMT適応候補となった。
認知症専門サービスでは177例がADと診断されており、うち68例がMMSE 20以上かつRockwood 5以下、16例はMMSEの最近のデータはないがRockwood 5以下であった(MMSE 20以上である可能性が高い)。さらに、DMTが禁忌となる症例を除いた結果、500例中70例(14%)のみがDMTの適応候補となることが判明した。
DMT供給の準備において重要
以上の結果について、Dobson氏らは「今回の知見は、英国においてDMTが正式承認された場合に、適応候補となる患者割合の推計値である。メモリーサービスクリニックにおいて対象患者が多かったのは、地域のメモリーサービスは、アミロイドバイオマーカー検査やMRIの利用が少ないことによると考えられる」と考察。
「後ろ向き解析という限界はあるが、今回の推計値は(英国の)臨床現場における、DMT供給体制の計画策定に役立つであろう」と述べている。
(木本 治)