新潟大学大学院医歯学総合研究科国際保健学分野(公衆衛生)の我妻奎太氏は、2007~19年(13年間)の47都道府県における結核の新規患者数と気温との関連を検討。その結果、新規結核患者数と平均気温は非線形の曝露反応関係を示し、結核発症リスクが最低となる平均気温は4.45℃で、この最低リスク気温と比べて高温(30.1℃)への曝露により結核発症リスクが52%上昇したIJID Reg2024; 12: 100384)に発表した(関連記事「糖尿病罹病期間が長いほど結核リスク上昇」)。

明らかな季節変動はなし

 我妻氏はまず都道府県別に、気温への曝露から結核発症までの遅延(ラグ)が非線形分布を示すと仮定したモデル(distributed lag nonlinear model)を用い、新規結核患者数と平均気温との関係を解析した。次に、混合効果メタ解析により全都道府県の推定値をプールして全国平均値を算出した。2007~19年の47都道府県における週単位の新規結核患者数は厚生労働省の感染症サーベイランスシステム(NESID)による感染症週報(IDWR)から、日単位の平均気温、最低・最高気温、相対湿度などの気象データは地域気象観測システム(アメダス)から収集した。

 解析の結果、2007~19年に全国で報告された新規結核患者は33万5,060例で、結核の発生に明らかな季節変動は認められなかった。

 新規結核患者数と平均気温は非線形の関係を示し、結核発症リスクが最低となる気温(最低リスク気温)は平均気温の10パーセンタイル(4.45℃)だった。最低リスク気温への曝露群と比べて、高温(平均気温の99パーセンタイル、30.1℃)への曝露群では結核発症リスクが52.0%上昇した(相対リスク1.52、95%CI 1.04~2.23)。また、高温(30.1℃)曝露による結核発症の中期の遅延効果(2~26週間)が認められた。

結核対策は地域別の気象条件を考慮すべき 

 一方、メタ回帰分析を行った結果、新規結核患者数と平均気温との関係は都道府県間の異質性が高かった。ただし原因は不明で、今後の研究で異質性に寄与しうる因子(経度・緯度、社会経済的地位など)について検討する必要があるという。

 以上の結果から、我妻氏は「結核のモニタリングや公衆衛生戦略は、地域特有の気象条件に合わせて調整することにより効果が高まる可能性がある」と結論。「今後は、平均気温に加えて相対湿度を考慮した評価も行う必要がある」と付言している。

 なお、平均気温と結核との関連を生むメカニズムの1つとして、同氏は「極端な低温または高温では屋内で過ごす時間が長くなる。このことが間接的に他者との接触頻度に影響を及ぼし、結核感染リスクを高めている可能性がある」と説明している。

(太田敦子)