糖尿病患者は、アルツハイマー病および関連認知症(ADRD)の発症率が高い。その機序はダイナミックかつ複雑だが、HbA1cおよび血糖値の変動、低血糖との関連が指摘されていることから、HbA1cのTime in Range(TIR、一定期間においてHbA1cが目標範囲にある時間の割合)の評価が有用と考えられる。TIRを用いた研究を数々発表してきた米・Harvard Medical SchoolのPaul R. Conlin氏らは、高齢糖尿病患者37万例超を対象に、TIRとADRDとの関連を検討。HbA1cを長期に安定させることが、高齢者のADRD発症リスク低下と関連することをJAMA Netw Open2024; 7: e2425354)に報告した。

HbA1c目標範囲を個別設定して評価

 対象は、米国退役軍人省およびMedicareのデータベースにおいて2004年1月~18年12月に65歳以上だった糖尿病を有する退役軍人で、3年のベースライン期間に4回以上のHbA1c検査結果がある者。37万4,021例〔平均年齢73.2±5.8歳、男性99%〕を解析に組み入れた。HbA1c値の管理目標範囲は、個々の患者の平均余命、併存疾患、糖尿病合併症を勘案し、6~7%、7~8%、7.5~8.5%、8~9%のいずれかに設定した。

 HbA1c TIRは、3年間でHbA1cが個々人の管理目標範囲に収まっていた日数を基に算出し、HbA1c TIRとADRD発症率との関連を検討した。また、HbA1c値が目標範囲未満だった割合(TBR)と目標範囲超だった割合(TAR)も算出し、それぞれが60%を超える場合においてADRD発症との関連を検討した。

目標範囲未満への逸脱が多いと認知症リスク上昇

 最長10年の追跡期間中に4万1,424例(11%)がADRDを発症した。交絡因子を調整したCox比例ハザード回帰モデルにおいて、HbA1c TIRの低さとADRD発症率上昇との間に関連が認められた〔HbA1c TIR 80%以上群に対する0~20%群のハザード比(HR)1.19、95%CI 1.16~1.23〕。

 さらに、HbA1c TBRが60%以上の群でもADRD発症率は有意に上昇した(HbA1c TIR 60%以上群に対するHR 1.23、95%CI 1.19~1.27、P<0.001)。一方、HbA1c TARが60%以上群(同0.96、0.91~1.00、P=0.06)と、混在群(TIR、TBR、TARのいずれも60%未満、同1.03、1.00~1.06、P=0.10)では、ADRDリスク上昇との有意な関連は認められなかった。

 ベースライン期間に低血糖リスクのある薬剤(インスリンおよびスルホニル尿素薬)を使用していた患者、低血糖イベント歴のある患者を除外した感度分析でも結果は同様だった(HbA1c TBR 60%以上群:HbA1c TIR 60%以上群に対するHR 1.23、95%CI 1.18~1.29、P<0.001、HbA1c TAR 60%以上群:同0.97、0.87~1.07、P=0.50、混在群:同1.08、1.01~1.14、P=0.02)。

 これらの結果を基に、Conlin氏らは「糖尿病の高齢者において、HbA1cを長期にわたって安定的に維持することがADRDのリスク低下につながることが示された。今回の知見は、年齢、平均余命、合併症に基づき個別にHbA1c目標値を設定することの便益を支持するものだ」と結論している。

(小路浩史)