中枢神経系の免疫担当細胞であるミクログリアの活性化は、神経障害や疾患への関与が知られており、低ナトリウム(Na)血症を急激に補正した際に生じる浸透圧性脱髄症候群(ODS)では、病変部へのミクログリアの集積が報告されている。だが、ODSに類似した脱髄病変を来す可能性がある高Na血症との関連は明らかでない。そこで藤田医科大学内分泌・代謝・糖尿病内科学の布施裟智穂氏らは、ミクログリア細胞株BV-2を用いた実験で検証。高Na血症(高Na濃度環境)がミクログリアの活性化に関与し、中枢神経系の機能障害を引き起こす可能性が示唆されたと、Peptides2024; 179: 171267)に発表した。(関連記事「ミクログリアが神経回路の発達に不可欠」)

急性高Na血症と慢性高Na血症の2パターンで検証

 ミクログリアは、感染や外傷に伴う神経障害を感知すると活性化し、障害部位への遊走、死細胞の貪食、炎症関連因子の産生などの作用を発揮する。そのためさまざまな中枢神経系疾患への関与が示唆されており、構語障害や四肢麻痺、痙攣、意識障害などの症状が現れるODSとの関連が認められている。また抗菌薬ミノサイクリンがミクログリアの活性化と蓄積を阻害し、ODS予防につながることも報告されている。

 ODSはNa濃度の急激な補正を契機に発症するため、高Na血症と類似する部分もあるが、Na濃度の急激な上昇または慢性的な高Na濃度環境とミクログリアとの関連は十分に研究されていない。そこで布施氏らは、ミクログリア細胞株BV-2を用い、急性および慢性高Na血症がミクログリアによる一酸化窒素(NO)産生に及ぼす影響、ミノサイクリンの効果などについて検証した。

 ミクログリア細胞株BV-2の培地交換は1日4回または2日ごとに行った。5回目の交換時、①急性高Na血症群では細胞外Na濃度を20、40mmol/Lずつ上昇させた培地に変更、②対照群はNa濃度を変えない培地に変更-し、炎症性サイトカインの分泌を促すリポ多糖(LPS)刺激を加える条件と加えない条件で比較した。慢性高Na血症群は、5回目の交換時に急性高Na血症群と同一条件になるよう、1~4回目の交換時に細胞外Na濃度を5、10mmol/Lずつ上昇させ、同様にLPS刺激の有無で比較。LPS刺激条件下では、刺激の6、24時間後に細胞を回収した。なお、活性化T細胞核因子(NFAT)5の関与を評価するため、LPS刺激の24時間前に低分子干渉RNA(siRNA)でNFAT5の発現を低下させた。

高Na濃度環境でNOS2発現、NO産生が有意に増加

 検証の結果、LPS刺激の有無にかかわらず対照群と比べ、急性高Na血症群(40mmol/L)、慢性高Na血症群(20、40mmol/L)では、いずれも誘導型NO合成酵素(NOS2)mRNA発現およびNO産生が有意に増加した(図1)。

図1.NO産生量

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 また、NFAT5 mRNA発現を測定したところ、条件にかかわらず対照群と比べ、急性高Na血症群、慢性高Na血症群のいずれも有意な増加が認められた。NFAT5発現をノックダウンすると、急性高Na血症群と慢性高Na血症群におけるNOS2 mRNA発現およびNO産生は有意に減少した(図2)。

図2.NFAT5ノックダウンによるNO産生量の変化

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(図1、2とも藤田医科大学プレスリリースより)

ミノサイクリンがミクログリア活性化を抑制

 ミクログリアにおける細胞内Ca2+濃度を測定すると、LPS刺激の有無にかかわらず高Na濃度環境では有意に低下した。次に、Na+/ Ca2+交換体(NCX)阻害薬を投与すると、LPS刺激の有無にかかわらず高Na濃度環境によって誘発される細胞内Ca2+濃度低下、NOS2発現、NO産生がいずれも抑制された。布施氏らは「これらは、NCXを介したCa2+の流出がNFAT5とは独立してNOS2発現とNO産生を誘導していることを示唆する」と考察している。

 さらに、ミノサイクリン投与が高Na濃度環境によって誘発されたNOS2発現とNO産生に及ぼす影響を解析。その結果、ミノサイクリン投与により、LPS刺激の有無にかかわらず急性高Na血症群と慢性高Na血症群ではNOS2 mRNA発現およびNO産生がいずれも阻害された。

 以上を踏まえ、同氏らは「高Na血症、特に慢性高Na血症の患者では、ミクログリアの活性化が神経疾患の一因となる可能性があり、その機序の一端を解明した。また、ミノサイクリンがミクログリア活性化を阻害しうることが示された」と結論。「さらなる機序解明により、高Na血症による中枢神経系機能障害に対する治療法の開発が期待される」と付言している。

(小暮秀和)