思春期には睡眠障害の推定有病率が高まり、死因に占める自殺の割合も高い。睡眠障害は自殺リスク上昇の一因と考えられているが、前思春期~思春期の小児を対象とした経時的な研究に基づくエビデンスは少ない。米・University of Colorado Anschutz Medical CampusのJoshua L. Gowin氏らは睡眠障害と自殺リスクの関連を検討する目的で、思春期脳認知発達研究(ABCD study)に登録された1万例超のデータを解析。その結果、「10歳時の睡眠障害と自殺リスクの上昇に有意な関連が認められた」とJAMA Netw Open(2024; 7: e2433734)に報告した(関連記事:「5歳児の睡眠障害、有病率が判明」)。
半構造化面接で自殺行動を聴取
対象は、2016年6月~18年10月に米国の21施設でABCD studyに登録された9~10歳の1万1,877例および両親または養育者(以下、親)。登録時に希死念慮または自殺未遂が認められた例は除外した。
主要評価項目は、登録時に26項目から成るリッカート式質問票Sleep Disturbance Scale for Children(SDSC:26~130点、高いほど重症)で評価した睡眠障害の重症度(低度:35点以下、中等度:36~46点、高値:47~51点、高度:52~66点、重症:67点以上)と、2年後に小児の精神疾患の半構造化面接Kiddie Schedule for Affective Disorders and Schizophrenia(K-SADS-COMP)で聴取した親または児から報告された自殺行動(なし、受動的希死念慮、非特異的希死念慮、特異的希死念慮、自殺企図)との関連とした。
児の性、年齢、人種、登録施設、親と児の臨床背景(親の教育歴、年収など)を調整したロジスティック回帰分析を行い、SDSC低度群を参照とした自殺リスクのオッズ比(OR)を算出した。
自殺行動のオッズ比は重症睡眠障害で2.68、毎日の悪夢で5.46
中央値で24カ月(四分位範囲23~26カ月)追跡した結果、1万136例中8,807例(女児48.8%、白人65.6%、黒人14.5%、アジア人2.2%)がK-SADS-COMPによる評価を受けた。
自殺行動は、なしが8,044例(91.3%)、受動的希死念慮が317例(3.6%)、非特異的希死念慮が258例(2.9%)、特異的希死念慮が130例(1.5%)、自殺企図が58例(0.7%)だった。
解析の結果、SDSC高度群では自殺リスクの上昇傾向が見られ(OR 1.39、95%CI 1.00~1.94、P=0.05)、SDSC重症群は自殺リスク上昇と有意に関連していた(同2.68、1.44~4.98、P=0.002)。
また睡眠の質に関しては、悪夢を見る頻度が自殺リスクと有意に関連していた。悪夢を見ないと回答した集団を参照とした場合、「ときどき見る」「毎日見る」と回答した集団で自殺リスクが高かった(順にOR 1.74、95%CI 1.07~2.85、P=0.03、同5.46、1.42~21.04、P=0.01)。
Gowin氏らは研究の限界として、①自殺行動のデータは客観的測定によるものではなく児および親の主観的評価に基づく、②前向き研究としては規模が大きいものの、研究施設付近に住む社会経済的ステータスが比較的高い参加者が多く対象集団に偏りがある-などを挙げた。
その上で同氏らは「10歳時における重症の睡眠障害とその後の2年間における自殺行動発現に関連が認められた。小児の自殺予防において、睡眠障害はリスク予測および介入の有用な標的となりうる」と結論している。
(編集部・小田周平)