非ステロイド型の選択的ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)フィネレノンは、左室駆出率(LVEF)が軽度低下した心不全(HFmrEF)だけなく、LVEFが保たれた心不全(HFpEF)患者に対しても有効であることがFINEARTS-HF試験で示された。英・University of GlasgowのKieran F. Docherty氏らは、同試験の事前設定解析としてLVEF別のサブ解析を実施。「LVEF40%以上を対象としたFINEARTS-HF試験において、フィネレノンによる主要評価項目(心不全悪化イベントと心血管死の複合)リスクの低下はLVEFの程度にかかわらず認められた」とCirculation(2024年9月29日オンライン版)に報告した(関連記事:「HFpEFにフィネレノンが有効」)。
LVEFの高い患者では効果が下がると言われていた
HFmrEF/HFpEF患者を対象とした過去のランダム化比較試験(RCT)の事後解析では、神経体液性因子調節(薬)による臨床ベネフィットはLVEFが高くなると減少あるいは消失することが示唆されている。
今回のサブ解析でDocherty氏らは、FINEARTS-HF試験参加者のベースラインのLVEFを50%未満、50~60%未満、60%以上に分類し、プラセボとの比較を実施。さらにLVEFを連続変数とした分析も行った。
解析対象6,001例のうち5,993例のLVEFデータが利用可能であった。LVEF平均値は53±8%、中央値は53%(四分位範囲46~58%)だった。このうち50%未満群が2,172例(36%)、50~60%未満群が2,674例(45%)、60%以上群は2,172例(36%)だった。
LVEFが高い患者ほど、高年齢、女性割合が高い、冠動脈疾患既往歴が少ない、高血圧と慢性腎臓病既往歴が多い、という傾向が認められた。
LVEF60%以上まで一貫した有効性を確認
解析の結果、フィネレノンによる主要評価項目の改善は、50%未満群〔発生率比(RR)0.84、95%CI 0.68~1.03〕、50~60%未満群(同0.80、0.66~0.97)、60%以上群(同0.94、0.70~1.25)のいずれの群でも一貫して認められた(LVEF群間の交互作用のP = 0.70)。
LVEFを連続変数とした解析でも、LVEFの値に関わらずフィネレノンのベネフィット修飾 (modification of the benefit of finerenone)は見られなかった(連続変数としてのLVEFの交互作用のP=0.28)。
以上の結果からDocherty氏らは「フィネレノンはベースラインのLVEFにかかわらず、HFmrEF/HFpEF患者の心血管死/心不全イベトリスクを低下させた」と結論した。
薬剤の特性と患者選択の違い、両方が影響している可能性
考察でDocherty氏らは、フィネレノンによる臨床ベネフィットが、LVEFが高い患者でも低下/消失しなった説明として、①フィネレノンはミネラルコルチコイド受容体に対する選択性と結合親和性が高く、心臓と腎臓組織に(エプレレノンやスピロノラクトンよりも)バランスよく分布する、②FINEARTS-HF試験のLVEF60%以上の患者のNT-proBNP濃度はHFmrEF/HFpEF患者を対象とした他の試験の患者よりも高かったが、NT-proBNP値が高い患者はMRAからのベネフィットを得やすい、③HFpEF患者における心アミロイドーシス(amyloid cardiomyopathy)有病率についての認識が高まり、FINEARTS-HF試験では心アミロイドーシスが除外基準の1つとなっていた。その結果、過去の試験に比べ心アミロイドーシスの患者が少なった可能性がある―と指摘。
研究の限界としては、①LVEFの値は試験担当医が報告したものであり中心施設(core laboratory)での検証はなされていない、②ランダム割付け前1年以内のLVEF値は登録基準のデータとして採用されたので、ランダム割付け時点の状態を反映していない可能性がある―を挙げている。
(医学ライター・木本 治)