幼児の運動能力は身体活動、体力、肥満、認知機能、学力と相関することが知られており、定期的なモニタリング指標として重要である。しかし、従来の運動能力評価ツールは項目数が多い、専用の用具や器具/広いスペースが必要などといった理由から、保育現場での導入が困難だった。そこで名城大学農学部/同大学院総合学術研究科准教授の香村恵介氏らは、幼児の運動能力を簡単に測定できるツールの開発に着手。特別な用具を必要とせず、わずか2項目、1人当たり約2分で測定可能なSimple Motor Competence-check for Kids(SMC-Kids)を開発したと、J Sci Med Sport(2024年12月19日オンライン版)に発表した。(関連記事「幼少期からの体力向上が精神的健康に益」)
「10m×4回のシャトルラン」と「紙ボール投げ」で評価
運動能力は主に移動能力、操作能力、バランス能力の3つの要素で構成される。しかし近年、3~5歳の幼児期においては移動能力とバランス能力を統合し、操作能力と組み合わせた2要素で評価した方が適合性が高いとの報告がある。
代表的な運動能力評価ツールであるTest of Gross Motor Development-3 (TGMD-3)では、全13種目〔走る、ギャロップ、片足跳び、スキップ、両足跳び、サイドステップ(以上を移動能力スコアとして評価)、バッティング、ラケット片手打ち、ボール突き、キャッチ、キック、オーバーハンドスロー、アンダーハンドスロー(以上をボール操作能力スコアとして評価)〕を行う。デモンストレーションと指示に従って練習1回、試験2回を実施後、専門家が評価するため、信頼性は高いものの時間と手間がかかり、保育現場で手軽に実施することは難しい。
そこで香村氏らは、短時間で簡単に実施できる幼児向けの運動能力評価ツールの開発に着手。SMC-Kidsにおける移動能力の評価は、幼児が頻繁に行う鬼ごっこなどに類似し、持久力やスピード、敏捷性を測定できる10m×4回のシャトルランを、操作能力の評価には限られたスペースで行えるようA4用紙と布テープでつくった紙ボール投げを採用した。
10m×4回のシャトルランでは、スタートラインから10m先に紙ボールを2つ設置。ボールを1つずつ取ってスタートラインに戻し終えるまでの2往復のタイムを測定した。紙ボール投げは1mの助走区間を定め、遠投距離を測定した。手順の説明を含め、測定完了まで1人当たり2~3分だった。
TGMD-3と中程度~高い相関
まず、妥当性を検証するため幼児71例(平均年齢5.95±0.60歳、女児36例)にSMC-KidsおよびTGMD-3を受けてもらった。解析の結果、10m×4回のシャトルラン(SMC-Kids)と移動能力スコア(TGMD-3)は中程度の相関、紙ボール投げ(SMC-Kids)とボール操作能力スコア(TGMD-3)には高い相関が認められた(順に、スピアマンの順位相関係数-0.51、95%CI -0.31~-0.66、同0.80、0.70~0.87、図)。
図. SMC-KidsとTGMD-3の相関散布図
(名城大学プレスリリースを基に編集部作成)
次に、信頼性を検証するため別の幼児91例(平均年齢5.10±0.90歳、女児49例)にSMC-Kidsを受けてもらい、幼稚園の教員および研究者の2人が評価した。解析の結果、10m×4回のシャトルランの級内相関係数(ICC)は0.940(95%CI 0.909~0.960)、紙ボール投げのICCは0.932(同0.898~0.955)と評価者間信頼性は良好だった。
さらに7~10日後、同じ幼児グループにSMC-Kidsを受けてもらい、同じ幼稚園教員が再度評価した。新型コロナウイルス感染症の影響で、2回目に参加した幼児は53例(平均年齢5.36±0.74歳、女児30例)だった。解析の結果、10m×4回のシャトルランのICCは0.950(95%CI 0.896~0.974)、紙ボール投げのICCは0.930(同0.882~0.959)と同様に良好な評価者内信頼性が得られた。
以上から、香村氏らは「特別な用具を必要とせず、短時間で簡単かつ高精度に幼児の運動能力が評価できるツールSMC-Kidsを開発した」と結論。「SMC-Kidsの活用を広げるためにより多くのデータを収集し、表計算ソフトを活用したシステム開発にも取り組んでいる。これらを通して幼児の健全な発達と生活習慣の形成に貢献したい」と展望している。
(編集部・小暮秀和)