副作用の少ない新規抗がん薬の開発につながる知見が示された。国立がん研究センター研究所基礎腫瘍学ユニット独立ユニット長の大木理恵子氏らは、p53遺伝子の制御を受けてがん抑制に関わるReprimo遺伝子がコードする蛋白質の機能を解明。同蛋白質が細胞内から細胞外へと分泌されて細胞死(アポトーシス)を誘導することなどを発見した。詳細はProc Natl Acad Sci U S A(2025; 122: e2413126122)に掲載されている。
子宮頸がん、腎がん、肺がん、腎臓の細胞でもアポトーシスを確認
2000年に大木氏が発見したReprimo遺伝子は、がんの抑制に関与していると考えられてきたが、その分子機能は明らかになっていなかった。
そこで同氏らは、精製した同蛋白質をがん細胞株に添加したところ、がん細胞が死滅する現象を確認した。
また、同蛋白質を子宮頸がん細胞株HeLaに添加した実験では、細胞がアポトーシスを起こしていることが明らかになった。加えて、腎がん細胞株ACHN、肺がん細胞株H1299、腎臓由来の細胞株HEK293に対しても同様の結果が得られた(図)。
図. Reprimo蛋白質添加量と細胞生存率
(プレスリリース資料)
細胞膜表面上の受容体に結合し、Hippo経路に影響
これらの知見を受けて、大木氏らはReprimo蛋白質を受け取る細胞膜表面の受容体を特定するため、免疫沈降と質量分析を実施。その受容体として、細胞間接着に関わるカドヘリン様蛋白質(FAT1、FAT4、CELSR1、CELSR2、CELSR3)を同定した。
また、細胞内のシグナル伝達経路を調べたところ、細胞増殖に関わるHippo経路の重要な転写共役因子であるYAP/TAZが活性化し、細胞の核内に蓄積していた。このYAP/TAZは、p73蛋白質(p53遺伝子同様、がん抑制に関連するp73遺伝子がコードする蛋白質)と結合することでアポトーシスを誘導することが既に知られており、今回の研究でもReprimo蛋白質によるアポトーシスにp73が関与している点が明らかになった。
さらにマウスを用いた実験では、Reprimoを発現する細胞とがん細胞を同時に移植すると、腫瘍の形成が抑制され、生体内でもReprimoががん抑制に寄与していることが示された。
正常細胞には影響を与えず
Reprimo蛋白質について、大木氏らは「これまでの検討では、全てのがん細胞にアポトーシスをもたらす一方、正常細胞には影響を与えなかった。そのため、この蛋白質自体やその機能を応用した抗がん薬は、副作用リスクを抑制しつつ高い治療効果を発揮する新しい治療薬になりうる」と説明。「細胞やマウスを対象とした実験で証明された、同蛋白質によるアポトーシスやがん抑制がヒトでも応用可能であるか、臨床応用できるかという観点からさらなる検証が必要だ」と指摘している。
(編集部・陶山 慎晃)