インタビュー

脳が影響する目の異常
「心療眼科」開拓者・若倉医師に聞く

 「まぶしくてしようがない」「目が痛いが原因が分からない。どうしたらよいのだろうか」。こんな悩みを抱えた患者が医療機関の眼科を受診しても、満足な答えを得られないこともある。背景には、「見る」という極めて大事な行為に脳の機能が影響していることを軽視している面があるという。「心療眼科」「神経眼科」という新たな分野を開拓してきた井上眼科病院名誉院長の若倉雅登医師は「一般の眼科医が目の働きが脳と深く関わっていることを十分に理解していないところに問題がある」と注意喚起する。

原因が分からない目の症状もある

 ◇患者に不安植え付ける

 眼科医が明快な回答を与えなかった場合、「失明するのが怖い」「一生、目が見えなくなるかもしれない」などといった不安を患者に植え付けてしまう。そんな不安を抱えたままでは、日常生活がとてもつらいものになってしまうだろう。若倉医師はこのほど、自らの経験に基づいた著書「心療眼科医が教える その目の不調は脳が原因」(集英社新書)を刊行した。

 目は体の中で最も精緻で感度の良い器官だ。それだけに、目の不調は多様な症状を引き起こす。若倉医師が診た外来の患者で多かった症状の上位は、(1)かすむ、ぼやける(2)まぶしい(3)しょぼしょぼする、ごろごろする(4)継続的な痛み(5)目を開けにくい―となっている。

 ◇MRIやCTで分からないことも

 角膜や網膜、水晶体の状態はどうか。緑内障や白内障、加齢黄斑変性はあるか。眼科医はこういった視点で診察し、検査をするのが普通だ。しかし、若倉医師はそれだけでは足りず、「診察前の問診を重視する必要がある」と強調する。「眼科医が目だけを診ていても、患者の症状を把握できないケースはある。それは、脳の複雑な機能を理解していないからだ」

 一方で、MRI(磁気共鳴画像装置)やCT(コンピューター断層撮影装置)を見れば、簡単に分かるという意見もある。だが、若倉医師は「MRIやCTでは局所の病変などを見ているだけで、脳の情報処理過程における不調や視覚の高次機能障害の場合では所見は得られない」と反論する。

「心療眼科」の提唱者、若倉医師

 ◇手術で終わるわけではない

 白内障の手術ではほとんどの人が治り、日帰りで手術を受ける人も少なくない。角膜の屈折率を変えるレーシック手術も技術的に磨かれ、レベルがアップした。ただ、若倉医師は「白内障の手術は外科的な治療で、外科の一部とも言える。切っただけで終わるわけではない」と語る。

 著書には、白内障の手術を受けたら見えなくなったという患者の話が紹介されている。手術により、視覚の環境が大きく変化する。脳がその状態になかなか適応できないケースもある、と分析する。

 「いわば、目を新しくするようなものだ。脳もこれに対応しなければならない」。若倉氏によれば、「元の目では、脳が長年つちかわれてきた高度な機能を獲得していた。それが新しい目ではその機能をそのまま使えないことがある」と言う。

 例えば、一流のスポーツ選手が目の手術をした場合、手術は完璧だったのにその競技に関する目の機能が戻らないことがあるという。視覚が目と脳との共同作業であることを示す1例だ。13年前に心療眼科として特別外来を立ち上げた若倉医師は最後に、「こうしたマインドをもっと多くの医師に持ってほしい」と力を込めた。(鈴木豊)

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