研修医こーたの出来たてクリニック

コロナで変わった医師の初期研修
手技の習得、有事への対応

 新型コロナウイルス感染症の流行によってさまざまなことに影響が出ていますが、私たち初期研修医も例外ではありません。目の前の患者さんに少しでも貢献する、という最も大切な使命は変わりませんが、研修を通して一人前の医師に成長するという点では、少なからず影響を受けているように感じます。

手技の実践は不足したが、平時ではできない経験も

手技の実践は不足したが、平時ではできない経験も

 ◇経験する症例に偏り

 当然、患者さんを「症例」として扱うことがあってはなりませんが、最低限の臨床能力をつけるためには、さまざまな疾患の患者さんを満遍なく、そしてたくさん診る必要があります。一般的に、初期研修医が最初の診察から治療方針まで携われる場所は救急部ですから、この救急部で患者さんをしっかり診察することは研修医の成長に大きく関わります。

 しかし、今年の救急車出動回数は前年と比較するとかなり少ないです。東京では累計326,488件(6月19日時点)で、前年と比較すると49,992件も減少しています。数だけで考えると、私たち初期研修医が積み上げることのできた経験値は、例年と比較して低いと言えるでしょう。

 また、新型コロナに対応する病院は発熱患者さんの受け入れに力を注ぎ、非対応の病院はその他の疾患を受け入れることが多くなります。一時的にCPA(心肺停止)患者さんの受け入れをやめてしまった病院もあります。

 このため、症例の数だけでなく、質にも偏りが出ていると感じています。経験するべき症例を十分に経験できず、いざという時に対応できないことへの不安を感じている研修医もいるようです。

 ◇習得すべき手技の実践不足

 採血、点滴のための静脈路確保、尿道カテーテル留置など、初期研修医が最低でも覚えなくてはならない手技はたくさんあります。これらの技術は医師であれば誰もができなくてはなりません。初期研修中に実践を重ねる必要がありますが、これらの手技に不可欠な防護具やガウンの不足から習得機会が減っています。

 このほか、感染管理の観点から、病院によっては一部の手技の経験が積めなくなっています。患者さんの呼吸を補助するために気管にチューブを入れる、気管挿管はその一例でしょうか。気管刺激によりエアロゾルが発生するため、挿管時は室内の人数を最小限にすることが推奨されており、初期研修医が同席して上級医の指導を受けるのが難しくなっています。

 ◇有事に学ぶ

 ただ、将来にとってプラスとなることもありました。発熱外来を担当させていただいたり、院内の新型コロナ感染症対策チームに入れていただいたりと、今後の医師人生に役立つ、貴重な経験ができました。新型コロナについて既存の教科書は何も書いておらず、情報収集の際は自分で最新の論文を読む必要があったため、原著論文を参照する習慣ができたと感じています。

 各地の新型コロナ対応を学ぶため、他施設の医師と情報交換をする機会が多くあり、視点も広がりました。全国の初期研修医それぞれに、普段の研修ではできない体験があったと思います。マイナスなことが目立つコロナ禍ですが、コロナによって得た経験を元により良い医療を提供できるよう、今後も努力していきたいと考えています。(研修医・渡邉昂汰)


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